1999.11.2

 

  6) ビタミン類
 

 

  ビタミンはご承知のように、微量(mgまたはμgの単位)で生理機能を調節して、代謝を円滑にさせる物質群で、欠乏すると欠乏症が起こるのがきっかけになって発見されたものです。例えばビタミンAの欠乏では夜盲症、ビタミンB1では脚気、ビタミンCでは壊血病、ビタミンDではくる病が見られました。現在ではこのような欠乏症は余程偏食でもしないと見られませんが、逆にある種のビタミンを多く含んだ食事を摂ることががん予防になるという研究があります。

 ここで話題になるのは、植物由来のビタミンAの前駆体であるカロチノイド(カロチン類を含む)、ビタミンC、葉酸、レチノール(ビタミンAの一種)、とビタミンEとです。カロチノイド、ビタミンCと葉酸は植物由来の食品殊に野菜、果物に多く含まれています。レチノールは専ら動物由来の食品に含まれ、ビタミンEの一番多いのは植物油です。

 個々については次の表に示しますが、これらのビタミンの補給とがん予防との関係はそれ程明確なものではありません。

証拠
がんリスクを減らす
関係なし
がんリスクを増す
確信出来る      
可成りの カロチノイド(肺がん)
ビタミンC(胃がん)
   
可能性あり カロチノイド(食道がん、胃がん、大腸直腸がん、乳がん、子宮頸がん)
ビタミンC(口腔咽頭がん、食道がん、肺がん、膵臓がん、子宮頸がん)
ビタミンE(肺がん、子宮頸がん)
ビタミンC(膵臓がん)
レチノール(肺がん、胃がん、乳がん、子宮頸がん)
ビタミンE(胃がん、乳がん) 葉酸(子宮頸がん)
 
不十分 カロチノイド(喉頭がん、卵巣がん、子宮内膜がん、膀胱がん)
ビタミンC(喉頭がん、大腸直腸がん、乳がん、膀胱がん)
レチノール(膀胱がん)
ビタミンE(大腸直腸がん)
葉酸とメチオニン(大腸直腸がん)
   

註1: カロチノイドとしてはβカロチンが一番注目されているが、これは比較的新しいことである。むしろレチノールがその細胞分化に対する作用と動物実験の結果から注目されていた。しかしその多量投与における毒性から、最近はカロチノイドに関心が移り多くの研究がなされた。その中でも肺がんについての効果が最も注目される。
肺がんについては5のコホート研究と18の症例対照研究とがあり、2をのぞいては喫煙を調整しても予防効果を示しているが、残念ながらどれも統計的に有意ではない。βカロチンの血中濃度と肺がんのリスクが反比例するというデータに基づいて、大規模な介入疫学(βカロチンの一定量を摂取した群と摂取しない群とを長期にわたって追跡調査する研究)がアメリカを中心としてなされた。約10年におよぶ高度喫煙者および米国医師を対象とする研究の結果は、残念ながら否定的であった。しかし、これはカロチノイド(βカロチン以外にαカロチン、その他いろいろの物を含む)の効果を否定するものとは考えられていないようである。
註2: ビタミンCは老化やがん化に対する活性酸素ラジカル説と共に、この酸素ラジカルを抑えるものとして注目されている。その意味で多くのがん予防研究が行われた。その中でも特に胃がんに対する効果が注目される。胃がんにつては、ビタミンCの大量摂取との関係について2のコホート研究と13の症例対照研究がある。前者の1と後者の12が防護効果(うち9は統計的に有意)を示している。また胃がんで亡くなった人はその血中ビタミンCレベルが低いという報告がある。地域的には血清ビタミンC濃度と胃がんの頻度に弱い相関があるという報告もある。これらに基づいてビタミンCは多分胃がんのリスクを下げると結論された。故ポーリング博士のビタミンCのがん予防説は有名であるが、今のところそれ程明かな効果を示した報告はない。今後更なる研究が望まれる。
註3: 葉酸についてはがんリスクとの研究は余り見られない。大腸がんについてコホート症例対照研究がそれぞれ1あり、葉酸の大量摂取はリスクを減らすことを示している。反対に葉酸の摂取が少ないと大腸直腸がんのリスクを増すとの報告があるが、これはアルコールの大量摂取が重なった為かもしれない。何れにせよ証拠は不十分である。
註4: ビタミンEについても研究は余り見られない。肺がん、子宮頸がん、大腸直腸がんなどについて幾つかの疫学研究があり、リスクを下げるというものもあるが、関連がないというものも見られる。このビタミンも細胞内抗酸化作用とい点で注目されている。胃がんについては2のコホート研究のうち1は相関なし、1はリスクの低下を示している。6の症例対照研究のうち2がリスクの低下を示している。また乳がんについては3のコホート研究、5の症例対照研究の何れも相関を示していない。
 
 
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