2009.11.1
 
八十路のつぶやき
 
菅 原  努
  78. 口に苦い良薬をなつかしむ
 

 

 歳をとったせいか、私は殊に貧血が強いためか分かりませんが、最近一寸したことでよくお腹をこわします。8 月からもう二度下痢と発熱に悩まされましたから、これは自分でも今までに経験したことのない弱り方です。初めのは、一寸した食あたりといった状況でしたが、それを買った店で問題が生じたというニュースは聞きませんから、どうやら私だけの事だったようです。次のは唯一つ残っていた奥歯が急に欠け、歯科を受診するまでうまく物が噛めなかったせいか、段々とお腹がゆるくなって遂に下痢になってしまったのです。

 私の主治医はこの様子を見て「菅原さんも最近お腹が弱くなりましたね。一つ他の薬と一緒に漢方薬ですが、お腹によいのを加えておきましょう」と言っていただきました。私は途端に昔からの「良薬口に苦し」の代表のような粉薬の「げんのしょうこ」を思い浮かべたのです。その薬は院内処方で出します、と言われたので一層そのようなことを想像してしまったのです。

 家に帰って頂いた薬袋を開けてみると、期待に反してみんな白く硬い錠剤で、しかもカタカナの名前が付いているではありませんか。勿論飲んでみて苦いわけでも辛いわけでもありません。無味無臭です。昔にがい粉薬を飲んでいた頃には、その苦味がなんとなくお腹の調子を整えるのに役立っているような気がしたものでした。他の薬と同じような白い錠剤を飲んでも、一向にお腹の調子がよくなった気がしないのです。確かに成分としては有効性が証明されているのかも知れませんが、口に苦味や薬味があって、効きそうだと言う気持ちにさせることも大事ではないのでしょうか。何か症状を訴える度にただ錠剤の数が増えいく現在の医療システムに何となく違和感を感じるのですが。幾つかの粉薬を混ぜて一包に包んである昔の処方を思い出して懐かしがっていては、先端医療の担い手にはなれないのかもしれませんが。

 主治医の一言の有り難味、頂く処方の薬包紙からでる効きそうな味と香り、プラセボー効果も交えた、医療の意味をもう一度考え直す必要があるのではないかと思った、今日この頃です。でもこんなことを言っていたら、「そんな粉薬を処方したら、今の若い患者さんからは“こんな苦くて粉ばかりのものが飲めるか”と苦情がくるでしょう」と主治医に言われそうですね。

 

 

 
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