2000.5.8

 
   
 

15.放射線ではどんなに微量でも
    線量に比例してがんが出来るというのは本当か:
  
答えは以下を読んで考えて下さい

 

 

 これは実は学問的には難しい問題で科学者としては本当の答えは出ていないのですが、現実には答えははっきりしています。すなわち微量の放射線ではがんの増加など見出せないと言うことです。でも国際放射線防護委員会ICRPの勧告もこの原則に基づいて出されていると聞いているという反論があることでしょう。その点を明確にするために次回以降に放射線防護の考え方の変遷をたどってみたいと思います。それによってICRP勧告がどのように発展してきたか、そして今何が問題になっているか、その問題が正に今回のこの問題であるということを順を追って理解して頂きたいと思います。

 それでも昨年の東海村でのJCOの事故で住民の方々の中に数mSvの放射線を受けた人がおられそれが正にこの質問に相当する訳ですからここで何らかのお答えをしないわけにはまいりません。mSvなどと言われてもどんな大きさか分からないでしょうから、比較のために私達は普通大地と宇宙からと自分のからだの中からとで合わせて1年間に約1mSvの放射線を受けていることを覚えていて下さい。また中国の南の方にこの自然放射線の高いところがあり、そこの住民はこの約3倍の放射線を受けていますが、その人達はそこの何世代も健康に生活しています。また胸のX線写真を1枚撮ると胸部に1mSv位の放射線を受けます。これで東海村の住民の方が受けた数mSvとはどの位か想像して下さい。

 さて放射線でがんが出来るというのはどういうことでしょうか。この言葉をそのまま聞くと放射線を受けた人にはみんながんが出来るように思われるかもしれません。しかし問題はそんなに単純なものではありません。がんというのは今では日本での死因の第一ですから、国民の4、5人に一人はがんで死ぬことになります。その殆どの原因は未だ分かっていません。またたばこは肺がんの原因として有名ですが、喫煙者が全部肺がんになるのでないこともご承知の通りです。たばこをのまない人も肺がんになることはありますが、喫煙者ではその率が5〜10倍高くなるというのが実際のデータです。放射線の場合も同様でがんになる率(これをこの場合リスクと呼ぶことにします)が線量に比例して増えるというのが表題に言っていることです。しかしそのリスクは喫煙の場合に比べて極めて小さくICRPは1Sv(1mSvの1,000倍)で生涯に5%の増加があると推定しています。1mSvではこの1,000分の1ですからたばこに比べてとても小さいことがお分かり頂けるでしょう。いわゆる発がん因子と言われているものの中では放射線は弱い方に属します。

 でもそうして起こったがんが放射線によるものだと言うことがわかるのでしょうか。放射線によるがんというのは原爆被爆者を中心として多くの放射線を受けて集団についての統計的な研究(これを疫学と言います)に基づいて分かってきたものですが、統計的に増加が証明されたということで、病状や病理学的にこれが放射線によると示されたものはありません。従って増加の程度が少ないと統計的な証明が難しくなり、放射線量にして100mSv以下では増加が証明されていません。それでも微量の放射線でがんのリスクがあると言われるのはこれ以上の線量の場合にはがんの増加が線量に比例しているので、それがそのまま低い線量の所でも当てはまるものと仮定して推定しているのです。高い線量でも低い線量でも同じ機構でがんが出来るとすればこの推定も的外れではないでしょう。しかし最近放射線生物学の研究が進んで低い線量のところでは高い線量では見られなかったような現象が幾つも見つかり、がんのリスクは今まで考えられたより低いかも知れないということで、この推定に疑問が出されるようになったのです。

 この微量の放射線で何が起こるかということは科学者の間で今盛んに議論されているところですが、まだはっきりとした結論が出ていないということだけはみんなが合意しているところです。またリスクがあるとしてもそれは極めて小さいものであると言う点も異論がないものと思います。今後も理論的に機構面からこんなことが起こりうるということは言えても、実際にリスクの増加を証明することは出来ないと考えられます。

 結論としてこの問題は防護体系の上ではいろいろと議論があるところですが、現実には微量の放射線では何も起こらないということです。

 

 

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