2003.5.6
 
Topics (環境と健康Vol.16 No. 2より)
毎日新聞 企画特集 
がん治療最前線 平成15年3月16日(日)より

 
 

毎日健康サロン

 毎日健康サロン・市民公開講座「がん治療最前線〜ハイパーサーミア(がんの温熱療法)とは」(毎日新聞社、毎日健康サロン、財団法人体質研究会主催、日本ハイパーミア学会国際がん治療増感研究会山本ビニター株式会社協力)が2月15日、大阪市北区梅田3の毎日新聞大阪本社オーバルホールで約500人が参加して開かれた。菅原努・財団法人体質研究会理事長(京大名誉教授)が「温熱療法はなぜ効くか」、近藤元治・藍野病院院長(京都府立医大名誉教授)が「新しいがん治療ハイパーサーミア」と題してそれぞれ基調講演。続いて近藤院長とともに湯川進・日本内科学会理事(和歌山県立医大教授)が座長を務め「ハイパーサーミア(がん温熱療法)のABC」のタイトルでパネルディスカッションが行われた。パネリストとして菅原理事長に加え、上田公介・名古屋市立東市民病院泌尿器科部長、寺嶋廣美・九州大教授、バレンチナ・オスタペンコ・西出病院主任が臨床の立場から分かりやすく発言、意見交換した後、参加者から寄せられた質問にも答えた。また患者さんと家族が高周波を用いるハイパーサーミア治療の体験を話した。

 

がん治療最前線
〜ハイパーサーミア(がんの温熱療法)とは

会場の様子


 

sugahara温熱療法はなぜ効くか
悪い細胞のみ撃退できる

財団法人体質研究会理事長・京都大学名誉教授
菅原 努 氏

 がんの治療法といえば、外科手術、放射線療法、化学療法や免疫療法などがよく知られています。それに比べてハイパーサーミアは、まだ一般に普及しているとはいえません。しかし、決定的な治療法のないがんに対処する一つの有効な選択肢であることは、多くのデータが示しています。

 温熱療法の原理を理解するために、例えばお風呂に入った場合を考えてみましょう。43度くらいになると、もう皮膚が真っ赤になります。皮膚には網の目のように毛細血管が走っています。熱が加われば血管は拡張することによって血流を増やし、熱を運び去ってそれ以上皮膚の温度が上がらないようになっています。

 一方、がん腫瘍のほうは温度が上がっても、血管を拡張して血流を増やすことができません。しかも酸性になっているから熱に弱いという性質があります。がん細胞は43度くらいの熱を加えると死んでいきます。私たちが43度のお風呂に入ってもやけどをしないのは、細胞同士がちゃんと助け合っているからです。ところが、がん細胞は全然助け合いません。これはがん細胞が独立して体中あちこちに飛んでいくためには好都合で、だから転移が起こって怖いわけです。

 このように上手に熱を加えて処理してやると、がん細胞だけが死んでいきます。これは正常細胞もやられてしまう従来のがん治療から考えると理想的なことです。

 しかし難点もあり、体の中にある腫瘍を加熱することが難しかったのです。これは高周波の使い方の技術的な問題です。同じ高周波でも下手に使うと体の中はぬくもらないが、うまく使うと深くまでぬくもります。電極を上手に加減すると、いろんな部分をぬくめることが可能です。臨床の経験を踏まえた結果、いま世界で一番普及している装置ができました。



kondou新しいがん治療ハイパーサーミア
副作用なく患者に優しい

藍野病院院長・京都府立医科大学名誉教授
近藤 元治 氏

 がんは芽生えてから大きくなるまでに時間がかかります。がんが発生して10年、20年たってパチンコ玉くらいのサイズになると、CTなどの検査で見つかります。一カ月ごとに分裂して1個が2個、2個が4個になるがんの場合、ほぼ半年でゴルフボールの大きさに、1年でテニスボールくらいになります。がんによって進行速度が違いますが、まず1センチ大で見つかればラッキーで、早期の手術が可能です。ただ、検査方法によって精度が違いますから、見落とされることもあるので、毎年とまではいかなくても2年に1回はきちんと調べておくとよいでしょう。何しろがんというのは、したたかな相手なのですから。

 手術・放射線療法・化学療法が、がん治療の3本柱です。でも、その効果が薄れて、主治医の治療に対する意欲が衰えたとき、患者さんはそれを敏感に察知して、わらにもすがる思いで免疫療法とか各種の代替医療を求めています。「さまよえるがん患者さん」という言葉がぴったりで、現にほとんどの患者さんが主治医には内証で、いろいろな治療を受けておられます。

 私はがんの治療というのはあくまでも闘いであり、決してあきらめてはいけないと思います。副作用のない治療で少しでも良い生活を送っていただきたい。その役割を果たすのがハイパーサーミアなのです。

 問題は、ハイパーサーミアでがんが小さくならないとき、医師も患者も効果がないと判断し、この治療法に見切りをつけることです。がんが大きくならずにおとなしくしているのなら、これは効果があったと考えていただきたいのです。そうでなければ、またさまよわれることになりますよ。放射線や抗がん剤に代替医療も併用されて、がんと闘いながら患者さんに優しい医療であるハイパーサーミアも受けられる、というのが私の願いです。


通院での加療可能になる
 医師も、患者さんが元気に生活されたその時間の中身を評価するべきです。多くの進行がんのがん患者さんがぎりぎりまで家から通院され、ほとんど麻薬も使わずに、穏やかに臨終を迎えられます。痛い痛いと苦しみながら生きるよりも、はるかに幸せなことではないかと思います。



・・・・・・・パネルディスカッションから・・・・・・・

ueda高齢者に負担少なく有効

上田公介 名古屋市立東市民病院泌尿器科部長
(名古屋市立大学臨床教授)

 多くの高齢の患者さんとお話をしていますと、年を取ってがんになっても仕方がないけれど、できれば苦しみたくない、苦痛を伴うような治療法は遠慮したいと言われます。副作用の強い抗がん剤や負担のかかる手術もできれば避けたい。そういった意味からも、温熱療法は患者さんに負担が少ない治療法です。

 前立腺がんは一人一人内容が違います。それぞれの患者さんの病態に応じて温熱療法が可能で、しかも何度でも治療できるのです。放射線治療をした後でも、手術をした後でも行えます。抗がん剤や免疫療法と併用して治療もできます。手術ができない高齢者の前立腺がんで温熱療法によってがん細胞が消失した例や、直腸のほうまで進んでしまった膀胱がんが、抗がん剤と温熱療法の併用で元通り排尿可能になった例など、多くのケースが有効性を示しています。上手にやると非常に気分がよくて、またやってほしいと何回でも来られます。


ueda放射線との併用で好結果

寺嶋廣美 九州大教授

 私はがんの放射線治療と温熱療法を主に行っています。初期のがんでは放射線療法で手術と同じように治せるものがかなりあります。例えば、喉頭がんの場合には声を温存して治せますし、初期の乳がんでは腫瘤のところだけを切り取ったあと乳房を照射しますと、乳房の形を残したまま治せます。

 しかし、がんが大きくなりますと放射線の量を増加しても治すのが難しくなります。これを温熱療法と併用すれば大きな効果が得られます。例えば再発乳がんでは約1.5倍の効果があります。

 手術不能の進行がんでは、胸壁に浸潤したパンコースト型肺がん、縦隔に転移したIII A期の肺がんで、放射線治療と温熱療法を行った結果、がん細胞が完全に消えた例もあります。子宮頸がんの場合、I期、II期では放射線治療でもよく治るのですが、膀胱に浸潤したIV a期で手術もできない状態から、放射線治療と温熱療法を受けて回復し、5年以上たった今も元気にしておられる方もいます。放射線療法は機能とか形態を保存したまま治すのに優れ、さらに温熱療法を加えますと局所制御力が上がるという特徴があります。



ostapenko局所温熱で免疫増強効果も

バレンチナ・オスタペンコ
西出病院温熱治療研究室研究主任
(日本ハイパーサーミア学会認定指導教育者)

 がんのきっかけとなる因子として、ウイルスの侵入、がん遺伝子の存在、発がん物質、紫外線、老化、ストレスなどが考えられます。しかし、これらの因子を持っていてもがんになるとは限りません。なぜかというと免疫などの防御システムが働いているからです。私たちが病気になった時に出る熱は、体の免疫力を高める働きがあります。同じく患部を局所的41〜43度に温める局所温熱療法も、免疫力を高める力を持っています。

 私たちはこの治療法が免疫機能を高めるかどうかを見るために、多くの臨床データを取り調査を行ってきました。例えば、腎臓がんの局所温熱療法により腎臓に存在した大きな原発巣の縮小を確認したと同時に直接温熱療法をしなかった肺転移病巣も一回り小さくなったのは、温熱治療による免疫効果だと考えられます。温熱療法には、局所的に働く直接的な抗がん作用だけでなく、全身の免疫増強効果があり、まさに宮本武蔵の二刀流のように非常に有効な治療法だと思います。


・・・・・・・質疑応答・・・・・・・

yukawa座長の湯川 進・日本内科学会理事

――ハイパーサーミアは肝臓がんに有効ですか。
湯川 肝臓がんの患者さんにハイパーサーミアを行った結果、すごく元気になられたのを見て私自身が驚き、勉強している次第です。最後は亡くなられましたが、元気に日常生活を送れた期間が比較的長かったように思います。ただ温熱療法単独で腫瘍がなくなるかというとちょっと無理で、手術や他の療法と併用するのがよいと考えています。症例が少ないですが、温熱療法で数カ月間腫瘍の増大が認められなかった例もあり、今後はたくさんの症例を集めて検討する必要があると思っているところです。

――肺は温まりにくいので難しいと聞きました。
寺嶋 確かに肺には空気があるためそう考えられた時代もあったのですが、加温してみますとよく温まることが分かりました。進行肺がんや再発肺がんにも適用できまして、例えば一度治療した肺がんが局所再発した場合、もう放射線もかけられない、抗がん剤もこれ以上は無理というような状態が多いのです。そんな場合にもハイパーサーミアが効果的で延命につながります。

――前立腺のがんが他に転移しています。
上田 転移がなくて大体固まっている場合と、骨やリンパ腺に転移している場合とで治療方針が違います。固まっている場合は、若い人なら手術しますが、がんが残る場合があります。そこで放射線療法やホルモン療法、温熱療法を行います。全身に転移している場合は目下研究中です。前立腺がんの元のところを温めたら、転移層もよくなるのではないかという希望を持っています。

――免疫療法はどの程度期待できますか。
オスタペンコ 免疫療法は全身状態を改善させる治療の一つです。
 リンパ球を患者さんから取り出して、それを元気にして患者さんに戻してあげるLAK療法もあります。放射線や抗がん剤、ハイパーサーミア、そのうえに免疫療法を加えたらよいと思います。免疫療法だけでがん治療をするというのは難しいでしょう。

――わらにもすがる思いでアガリクスなどの健康食品を購入し、サメ軟骨療法を試みています。
近藤 代替医療といわれる療法については、だめだという医者も多いでしょうが、実際はそれを知らないことが問題です。免疫力を高めるとかいろんな意味があるでしょうし、それなりに効く人もあるわけです。ハイパーサーミアと併用なさってもよいと思います。


・・・・・・・治療の体験報告・・・・・・・


苦痛なく快適 :延永征二さん(大阪府茨木市)
 抗がん剤の治療は副作用があり、非常につらいものです。私も吐き気や口内炎など多くの症状を経験しました。ハイパーサーミアは苦痛が全くなくて本当に気持ちがいいです。週1回約1時間の治療を受け、マッサージもしてもらってまるで天にも昇るようないい気分です。お陰で病気のほうも落ち着いている様子です。

痛み止め不要に :上野左貴さん(京都市)
 父のすい臓がんは疼痛がひどくてモルヒネを使わないと治まらなかったのですが、ハイパーサーミアの治療を始めてから亡くなるまでの2カ月余りの間、痛み止めの薬を飲むのを忘れてしまうくらいに和らげることができました。亡くなる4日前に倒れるまで、自宅で私たちと一緒に生活ができました。食事がとれ、自分でお風呂にも入れました。これは本人と家族が一緒に頑張れる治療法だと思います。