2003.1.1
 
Books (環境と健康Vol.15 No. 6より)
「ヒト、この不思議な生き物はどこから来たのか」

長谷川真理子 編著
ウエッジ選書 11 2002年5月31日発行 ¥1,200+税
ISBN4-900597-51-2 C0045
 


 人類学を生物の分類、進化から未来まで展望するものととらえ、それをお話のなかでうまく展開してくれるので、つい本当かなと思いながらも面白く読み続けさせてくれる本である。

 本の帯にも書かれているが、「おばあさん」がいるのは人間だけか?生物にとってその種族が生き残るためには生殖が大切で、子供を生んでしまえば、あとは用はないはずで、殆どの生物のメスは子供を生むと間もなく死んでしまう。ところが人間だけは例外で「おばあさん」が沢山居る。繁殖が終了したあともずっと生き延びるということは、進化的にはおかしなことである。生物は、繁殖してこそ存続していく。どんなに長く生存する個体があっても、繁殖しなければ、その個体の遺伝子は残らない。

 ところで、女性が閉経を過ぎても生き続けるというのは、ヒトという生物の進化的特徴と考えてもよいのだろうか。それとも、こんなことは、ごく最近、現代文明の恵みの結果起こったことにすぎず、ホモ・サピエンスの進化過程では、女性も閉経とともに死んでいたのだろうか。どうやらそうではなく、女性は昔から閉経後も生き残ったようである。すると、この性質は何故進化したのだろうか。そこで、女性が自らの繁殖から開放されたあと、その知恵と経験を生かして自分の娘や血縁の子育てを援助することにより、結局は繁殖成功度を上昇させることができたからではないかという仮説「おばあさん仮説」が提出された。

 もう一つ、帯には「人類の進化はたき火のおかげ?」というのがある。多くの動物は、捕食者をはじめとするさまざまな危険に取り巻かれているので、つねにそれらの危険に対して注意を払っていなければならない。社会生活を送っていつ動物も、同じ集団に属している他の個体が何をしているかについても、つねに注意をはらっていなければならない。つまり、普通の動物にとってずっと何かに集中しているということは不可能である。

 そこで、捕食者からの危険を大幅に軽減する効果を持ったに違いないと思われるのは、火の利用とその管理である。人間は、ホモ・サピエンスになってから火をコントロールすることができるようになり、十分なゆとりを持った認知的生活を享受することができるようになったとかんがえられないこともない。

 これらはほんの序論である。進化の話から、女性主導の「一夫一婦」とか「近代化と老人」とかへ話は発展する。肩の凝らない面白い科学的想像の世界を楽しませてくれる本としてお勧めする。   

(Tom)