2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

起死回生の過程

 ところがそれが受精いたしますと分裂を開始するわけであります。従いまして受精は細胞の分裂能力の限界を超える起死回生の過程であるという具合に考えて良いのではないかと思います。起死回生の受精の原則は、これは単に我々のような高等な動物だけではなくゾウリムシのような原生動物にも適用されるわけであります。と言いますのは、1個のゾウリムシを取りましてそれに栄養を与えて培養してまいりますとどんどん増殖分裂いたします。しかし150回〜200回ぐらい分裂いたしますとそこで分裂が停止いたしましてそのクローン、1個のゾウリムシから出発した細胞集団は全部死滅いたします。ところが他の集団から取ってきましたゾウリムシ、それは雌の系統だとするともう1つの雄の系統のゾウリムシを一緒に混ぜて同じように培養いたしますと100回或いは150回ぐらい分裂した時に両者が接合いたしまして、その両者の間で核の交換が起こります。このいわゆる接合現象を一度経ますとその後細胞は再び150回〜200回分裂することが出来る。そこでまた接合が起こる。そして接合を繰り返すことによりまして、そのゾウリムシのクローンはいつまでも永遠に分裂を続けることが出来るわけであります。従いましてゾウリムシであっても人間であっても2つの細胞、雌と雄の細胞が接合して遺伝子の交換或いは融合を行うという過程を経る、いわゆる受精の過程を経なければ細胞には分裂能力が回復してこないのであります。接合する或いは受精する為に生殖細胞は変化を経なければなりません。

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