2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

はじめに

 増井でございます。本日はここにお集まり頂きましたお1人お1人に厚く御礼申し上げます。と同時にこの盛大なる記念講演会を企画され私を講師の1人としてご招待頂きました山岸秀夫先生、菅原努先生をはじめ健康指標プロジェクトの皆様方に厚く御礼申し上げます。ところで今日の演題は卵成熟の生物学ということでございますが、まず初めに人間の寿命或いは動物の寿命ということについて簡単なご説明をすることから今日の話を始めたいと思います。

生命の限界

 フランソワ・ジャコブが生物系の論理という本の中で申しますように、生物の寿命というものは原核細胞が真核細胞に進化する途中に現れた特殊な現象であると言っております。原核細胞、例えば細菌のようなものは寿命というものがございません。核を持った生物では原生動物から我々高等な人間に至るまで生命は永遠なものではなく限界があるということは絶対な真理でございます。どうして我々に寿命があるのかということに関しましては色々な学説がございますが、1つの学説はそれは我々の体の中にある細胞にその分裂する能力の限界があるという説であります。この説によりますとよく分かりますように1,000年生きるといわれるカメであっても180年ぐらいの寿命しかありませんし、人間では100年そこそこがせいぜい生きながらえる時間であります。ニワトリはその3分の1、30年。マウスになってまいりますと数年という非常に短い命でございます。ところがこれに比例しましてそれぞれの動物の初期胚から取りました細胞を培養してまいりますと、その細胞は限られた回数しか分裂しないということが分かってまいりました。それはガラパゴスのイシガメでありますと125回ぐらいまでを限度として分裂いたします。それから人間では60回ぐらいであります。このようにニワトリ、マウスなどでは分裂回数の限界が短いのであります。そして全ての細胞はある程度分裂をいたしますとその後分裂を停止しましてそのまましばらく生きてはおりますが、やがてそこで死滅して個体の死がおとずれる。これがヘイフリックの規則と呼ばれる現象でございます。

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