2001.2.1
 
「環境と健康」Vol.13 No.2
健康指標プロジェクトシリーズ

卵成熟の生物学
トロント大学 ラムゼイライト動物学研究所
増井 禎夫
 

受精卵の細胞質と細胞の回生

 ところで今まで精子や卵だけの実験をやっておりましたが他の細胞の核にも拡張出来るものではないかというわけでカエルの脳の細胞をつぶしてその核を取って同じように卵細胞に注射いたしますとやはり成熟した卵の中に注射された脳の核は膨らんでDNA合成を起こします。成熟して受精した卵の細胞質によって脳の細胞というような非常に分化してもはや分裂しないような核でもやはりここで分裂能力を取り戻すことが出来るというのが分かってまいりました。成熟していない卵母細胞の中に注射した脳の核はこのまま置いておきましても何の変化もありませんが成熟した卵の中に注射いたしますと染色体を作ります。そしてこれを刺激しまして受精した状態にいたしますと核の中でDNA合成が起こりまして分裂能力を回復してくるわけであります。その時に卵細胞質のタンパク質を放射性同位 元素を含むアミノ酸で標識しておきますとその標識された卵細胞の細胞質のタンパクが核や染色体に集まってくることが分かりました。従っておおざっぱな結論としまして受精卵の卵細胞の中の細胞質のタンパク質が核の染色体にやはり集まって、そこで何かの作用をして核の分裂能力を取り戻すような働きをするのではないか。従いまして受精した卵の卵細胞質はそれまで駄 目になっていた細胞の分裂能力、核の能力を回復する、そういう働きを持つ重要な細胞質であるということが分かったと思います。どうもご静聴ありがとうございました。

(第10回健康指標研究会 平成12年1月22日
京都パークホテルの講演による)

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註:本稿は、読みやすく書き改め図などを加えてシリーズ「21世紀の健康と医生物学」第一巻“いのちを創る”の巻頭を飾っている。