2002.5.9
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第31回(5月18日(土) 14:00〜17:00、京大会館
温熱治療による免疫能の活性化

バレンチナ・オスタペンコ
(医療法人尚生会西出病院)
 


 温熱治療は元来医薬の役目を果たしてきました。最近ウイルスの数や複製を減少させる能力が証明され、エイズウイルスやC型肝炎ウイルスをふくむウイルス感染の治療にも用いられています。慢性炎症疾患では、免疫担当細胞が目的部位へ移動する能力を促進させており、免疫システムの活性化が注目されています。癌治療に対する温熱治療の効果としては、直接的な癌殺傷効果、放射線感受性増強効果、抗癌剤増強効果を目的としてきましたが、今回我々は免疫システムの活性化に着目いたしました。

 癌細胞は免疫からの攻撃を回避するために膜レセプターのdown-regulationを行い、しばしば免疫療法が無駄になってしまいます。癌を加温することによって、癌特異抗原の発現増加やICAM-1の誘導を生じ免疫細胞の癌細胞認識をたやすくします。また、加温部位でCD4, CD8, NK細胞の活性が上昇しており、免疫担当細胞の移動能力増加の根拠となっています。我々のデータではNK細胞の活性化は担癌患者のQOLの改善と関連を認めており、温熱治療による免疫効果促進とベータエンドルフィンの放出とが正相関していると思われます。以前、温熱治療時にhsp、特にhsp70の発現誘導はサーモトレランスひきおこし、温熱の治療効果を減少させると考えられてきました。しかしながら、最近、癌治療レベルではサーモトレランスはさほど重要ではないことが証明され、hspの発現も癌治療に大切な役割を果たしている可能性がでてきました。正常細胞を加温するとhspは核へ移動しますが、一方悪性細胞ではhspは細胞膜で発現しMHCクラス1の活性化をおこしたり、マクロファージ(サイトカインを分泌し、樹状細胞を活性化する機能を持っている)を免疫的に刺激したりしています。温熱治療後にCD8+T細胞が増加する我々のデータを併せると,温熱治療はMHCクラス1と関連をもった抗癌免疫反応を増強しております。

 我々は現在、腹部の悪性新生物やC型肝炎の治療モデルとなるように、上腹部を加温しその免疫効果を検討しており、末梢リンパ球の活性化、ガンマ-インターフェロンの発現と抗原提示能力の促進等の効果を認めております。

 

 
 

 

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