2002.5.9
 

 平成14年健康指標プロジェクト講演会要旨

第31回(5月18日(土)14:00〜17:00、京大会館
ストレス耐性誘導による治療限界拡大の可能性

野口 孝
(三重大学医学部看護学科)
 


【研究背景】

1.自然淘汰とは、努力のみならず、艱難辛苦に耐え生き抜いてきた現象とも解釈でき、厳しい人生と対決しながら夢に向かって生きる姿にも共通する一面がある。2.緊急手術症例などで、僅かの確率ながら幸い救命し得た方のその根拠に、最近の進んだ医療から見ても医学的な理由を明確に出来ないことも少なくない。3.職場でのストレスがあればある程これを乗り切ることに快感を得て、むしろストレスを喜びのきっかけとする人も存在する。

 これらの現象や事実は、ストレスに打ち勝てば勝つ程、ストレスに対する忍耐力が向上し、その結果、自己の限界拡大が可能なことを示している。

【研究成績】

 手術、外傷、感染、虚血再還流などの侵襲によって招来された臓器(細胞)障害に対して、種々の治療がintensiveに行われても回復の遷延することが多く、臨床上大きな課題となっている。この病態を軽減し、速やかに改善させる治療手段として、ストレス蛋白として代表的なheat shock protein(Hsp)発現誘導による基礎的研究が最近特に注目されている。しかし、in vitroでの研究が多く、臨床的なモデルによるin vivoの研究と臨床応用が望まれる。

 そこで、我々は、臨床病態を想定し、イヌやラットを用いて、ストレス耐性を獲得させるためのpreconditioning:sublethal stressである短時間の虚血負荷、あるいはHsp誘導剤(Geranyl-geranyl-acetone;GGA、商品名セルベックス)投与などを行って、Hsp発現増強を誘導した。その結果、Hsp発現増強は関係する細胞のアポトーシスを監視して、虚血再還流モデルや肝切除モデルに対して、それぞれ虚血限界や切除限界の拡大が可能であることを明らかにした。また、臨床例における温熱とHsp発現の臨床的意義についても自験例から検討し、Hsp発現増強例では癌再発の減少などの効果を認めており、臓器障害の軽減を含め臨床応用について検索中である。

【結語】

 ストレス蛋白として代表的なHspを、対象とする臓器の細胞に予め発現増強させることによって(preconditioning)、臓器障害の軽減を有意にはかることが出来、虚血限界や肝切除範囲の拡大が可能であった。小さなストレスでも、これに耐えることはやがて来るであろうより大きなストレスに打ち勝てる可能性が高く、夢をもって生きていきたい。

 

 
 

 

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