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 平成23年度 事業報告書

 

 

  I  公益事業

   

 1.調査研究事業

   
(1 ) 高自然放射線地域住民の疫学調査研究
   
 

 放射線のリスク評価については、従来、原爆被爆者の健康調査結果がその基礎にされていたが、原爆被爆は一回の急性照射であることから、日常で問題になる低線量長期被ばくのリスクについては、放射線に日常的に、常時、暴露されている人々に関する疫学調査結果が重視されるようになって来た。その様なものとしては、原子力施設作業従事者、チェルノブイリ事故での被ばく者の健康調査などと並んで高自然放射線地域住民の健康調査がある。
 (公財)体質研究会は、中国広東省に存在する高自然放射線地域に注目し、1992年以来、中国の研究者との共同研究により地域住民の健康におよぼす低線量放射線の影響調査(疫学調査、線量調査および染色体異常調査)を行ってきた。さらに、1998年より中国とは生活様式、生活習慣が異なり、中国より高い放射線量を示すインド・カルナガパリ地区においても同様な調査を開始した。
 平成23年度は中国・インドにおける調査・研究をさらに継続し、データの蓄積を図ると共にコホート内の小集団について症例・対照研究を実施した。
 このうち、中国におけるコホート研究については引き続き追跡調査を実施すると共に、死亡者の死因調査を行った。
 インドにおいては、コホートIとコホートIIのがん登録によるがん発症データの収集、死亡調査および移動調査を行った。がん登録の現地調査ではコホート内外の全病院を定期的に訪問してがん患者の詳細情報を収集した。また、2010年の死亡情報の登録、2011年の死亡情報の確認のための現地への訪問作業を行った。さらに、住民の移動情報を定期的な移動調査によって集めた。
 線量測定では個人被ばく線量を推定した。これらコホートI、IIに関する詳細な情報をもとに行ったリスク解析では、がん発生リスクの増加は示されなかった。甲状腺の結節研究調査は実施について検討中である。
 染色体関連調査については、高自然放射線地域と対照地域に住む30〜65歳の女性被験者を対象に試料採取を行い、これらの試料につき、現在、分析中である。
 また、疫学調査の新たな項目として、がん以外の健康影響、特に心血管系疾患と白内障に焦点を当てた調査を実施することになり、今年度は研究デザインの検討と、調査の準備を行った。調査は24年度に実施し、25年度にはその結果をまとめることになっている。
 このような中、2011年6月、第58回国連科学委員会(UNSCEAR)において、「低線量放射線の健康影響に関する疫学調査」が検討課題として採択された。これに関係するのは(公財)体質研究会が進めている高自然放射線地域の疫学調査とロシア・テチャ川周辺の放射能汚染地帯の健康調査である。この決定は高自然放射線地域の疫学調査・研究が国際的に認められたことを示すものであり国際機関への働きかけの第一歩となるものである。

 

(2 ) 放射線リスク評価に関する調査
   
 

 体質研究会は1984年に放射線リスク検討会を組織して以来、放射線のリスクに関心を持つ専門研究者を集め、「放射線リスク」問題につき、毎年、調査・研究を進め報告を行ってきた。平成23年度は、福島第一原子力発電所の事故にまつわる諸問題を集中的に検討した。
 まず、主要な検討委員を招集し、どのような問題を研究調査するかについて企画委員会を行った(平成23年6月6日京都大学楽友会館)。その結果、この原発事故に関する緊急調査課題として、

 
 1) 放射性物質の環境汚染の様態と健康影響の可能性
 2) 被ばく住民に対する専門家のリスクコミュニケーションのあり方
 3) 放射線リスクを伝えるマスコミの姿勢と傾向
 4) 原子力に対する世論の動向
 5) 福島原発事故に関連した国際機関の動向
 

 などにつき、分担して検討する事とした。
 そして、「3•11以降の放射線リスクをめぐる諸問題」と題した調査研究発表会が、平成24年3月9-10日に約20名の委員と関係者を集めて行われた(京都大学楽友会館)。この集会では、リスク検討会の今後の方針についても話し合われた。この調査結果については、報告書としてまとめ関係者に配布した。
 その他、いままでの調査研究結果に基づいた「ICRPにおける放射線防護指針の枠組みについて」と「医療放射線被ばくに関するICRPを中心とした国際動向」の二つの解説を体質研のホームページに掲載した。

 

2.アイバンクの運営

   
 

 京都大学医学部附属病院眼科と連携して角膜移植に協力するため、本事業年度は次の事業を行った。

 
   
1)

献眼の受付業務
本アイバンク登録者から献眼者5名、摘出眼10眼あり、この内6眼の角膜移植があった。

2)

眼球提供者の登録業務
本事業年度25名の登録者を得た。

3) 啓蒙・啓発活動
登録者を少しでも増やすため次の啓蒙・啓発活動を行った。
イ. 機関誌「愛の光」を1668名の登録者に送付した。
ロ. 京大関連病院(京都桂病院外7病院)等へのポスター・パンフレットの設置・補充を行った。
ハ.

百万遍知恩寺の「手づくり市」において、6月・11月・12月・2月の4回、毎回1,500部のパンフレットを配布した。

   

3.「いのちの科学」の研究・普及

   
 

 平成17年度から継続している「文理一体となった多面的ないのちの科学」 の研究を引き継ぎ、3年前に男性中心の研究会を改め、女性からの視点、宗教との関わりなど、より広い視野に立つ「共に生きる」をテーマとした「いのちの科学」の研究をおこなっており、本年度は下記の事業を行った。

 
   
1)

市民公開講座「いのちの科学フォーラム」を5回開催した。
第20回いのちの科学フォーラム“地震国の原子力発電を考える”
 (平成23年8月6日(土) 京都市 京都大学医学部芝蘭会館・稲盛ホール)
第21回いのちの科学フォーラム“健康力の源”
 (平成23年9月24日(土) 京都市 京都大学医学部芝蘭会館・稲盛ホール)
第22回いのちの科学フォーラム“日本人と木の文化”
 (平成23年10月15日(土) 京都市 京都大学医学部芝蘭会館・稲盛ホール)
第23回いのちの科学フォーラム“低線量放射線被ばくのリスクを科学する”―福島原発事故を受けて―
 (平成23年11月19日(土) 神戸市 神戸商工会議所会館)
第24回いのちの科学フォーラム“深海生物の多様性と謎に挑む”
   (平成24年1月29日(日) 京都市 京都大学医学部芝蘭会館・稲盛ホール)

2)

委員を中心とした例会を開催した。
第36回:平成23年4月16日(土) 
 話題提供 森本幸裕 京都大学地球環境学堂教授 
 “都市での生物多様性”
第37回:平成23年5月21日(土) 
 話題提供 荒木 徹 京都大学名誉教授 
 “地磁気の起源と変遷”
第38回:平成23年6月18日(土) 
 話題提供 梅田康弘 京都大学名誉教授 
 “東北日本太平洋沖地震”
第39回:平成23年12月17日(土) 
 話題提供 細谷和海 近畿大学農学研究科 
 “シーボルト標本に見る日本の水辺の原風景”
第40回:平成24年2月11日(土) 
 話題提供 木下冨雄 京都大学名誉教授
 “リスク学から見た想定問題”

3) 季刊誌「環境と健康」を発行した。
Vol.24 No.2(夏号) 平成23年6月1日発行  1,100部 155頁
Vol.24 No.3(秋号) 平成23年9月1日発行  1,100部 133頁
Vol.24 No.4(冬号) 平成23年12月1日発行 1,100部 193頁
Vol.25 No.1(春号) 平成24年3月1日発行  1,000部 172頁
配布先 Vol.25 No.1(春号)の場合
会員356部(年会費3,000円)、市販用70部、贈呈518部(内全国図書館関係131部)、保存等56部  計1,000部
4) シリーズ「ともに生きる科学」全6巻のうち、第1巻山室隆夫著「不老長寿を考える」を、(株)ミネルヴァ書房より出版した。
   
   

4.放射線照射利用の促進

   
 

 放射線照射技術は工業、医療、農業など多くの分野で使用されているが、その利用の実態は一般市民には、全くといっていいほど知られていない。
 そこで、放射線に関する認識を高め、また、放射線の利用についての理解をいっそう深め、放射線の利用の促進とその範囲の拡大を目指す流れを発信しようとする機運が高まり1998(平成10)年4月に放射線照射利用促進協議会(JAPI)が発足した。
 以来、JAPIは機関紙JAPIニューズレターの発行、講演会の開催など、放射線照射利用に関する最新情報を提供するとともに、研究者・管理者・技術者が相互に交流する場を設定し、新しい照射利用分野のいっそうの広がりを図っているところである。
 そのような中、平成23年度に実施した事業の大要は以下の通りである。

 
1)
ニューズレターの発行:放射線の基礎知識をはじめ、放射線の理解に役立つ情報、各専門分野の最新情報などを中心としたJAPIニューズレターVol.14、No.1~6号を発行した。
2)

講演会の開催:第1回講演会を平成23年6月24日(金)に、第2回講演会を平成24年1月27日(金)に京大楽友会館にて開催した。講演演題は第1回講演会「アイソトープの供給について」、「PET製剤の製造と供給について」、「放射線の健康影響と原子力事故」、「卓上型放射光装置の原理と特長と新市場の創出及びマイクロトロンのEB事業への投入」、第2回講演会、「環境と放射線」、「放射線の健康影響について考える」、「放射線を利用したセシウム捕集材の開発と環境浄化への適用」、「放射線教育−原発事故で見直しが迫られるか−」である。

3) 見学会の開催:平成23年11月11日(金)京大原子炉実験所を見学。
4) ホームページによる情報提供・広報活動:放射線照射利用に関する最新情報を提供すると共に既発行分のJAPIニューズレターを掲載、公表した。また、新しい項目として「我が国における放射線利用」を企画・作成した(公表準備中)。
5)

他組織との交流:ONSAとの連携・協力体制を推進すると共に、量子放射線利用普及連絡協議会(原産協会)の連絡会に参加し情報交換を行った。

 

5.その他

   
 

 調査研究等活動の成果を積極的に社会に還元・発信するために、本事業年度も引き続きホームページhttp://www.taishitsu.or.jpの維持管理を行った。

 

 

 

 II 収益事業等

   
 

Tの公益事業の実施に伴い、附随的に行う収益事業等として次の事業を行った。

   

1. ナリネ菌製剤等健康食品の発売

 

 (株)ナウカコーポレーションが総販売代理店として市販を行っている、健康食品「ボンナリネ」・「ボンピュアー」・「ビュークレール」・「プレビアスV1」について、当財団を販売者として名称使用することの許諾を継続した。

   

2.研究助成並びに奨励事業

 

 本財団の事業目的に適合する研究・調査等を行っている学会や、協会、研究機関等及び個人に対する助成を行った。

 

 V 創立70周年記念行事の終了

   
 

 創立70周年記念として下記行事を実施し終了した。

   

1. 記念式典、講演会

 
 実施日時:平成23年11月20日(日)
 (1) 記念式典・特別講演   13:00〜14:20
 (2) 記念講演会 14:30〜17:30 
 (3) 祝賀会 17:45〜19:30
    参加者 114名を得て盛会裏に終了
   

2.記念誌の刊行

 

 60周年以後の10年間の活動を中心に平成23年12月発行 135ページ