2000.9.1

 

  22. ライフスタイルとすこやか長寿
 

 

 近頃は広告にも自分の健康は自分で守りましょうと言うのがみられる。これは勿論ある健康食品の広告で、すすんでこれを食べましょうという意味であるが、この言葉は健康にとって極めて重要な意味を持っている。自分は半年に一度ずつ健診を受けているから、日常は好きなようにやってればよいと言うのでは駄目だということである。これを別の言葉で表すと、健康はライフスタイルに大きく依存するということである。最近厚生省はこのことを今までの成人病を生活習慣病と呼びかえることで強調している。

 1980年にイギリスの癌疫学者のドルとペトーの両博士が、世界中のがんの発生を比較検討した結果、がんの80%は予防出来る、しかもその大部分はライフスタイルによる、と発表して注目された。その根拠は、1)同じ国でもがんの種類とその頻度とは時と共に変わる、2)国によって同じがんでもその頻度が大きく変わる、3)日本人がアメリカに移り世代が進むと共にがんの頻度が日本型からアメリカ型に変わる、4)同じ国のなかでも生活条件によってがんのパターンが変わる、5)私はこれにさらに、前立腺がんのようにがんとしての発病率は大きく変わっても剖検で見出される潜伏がんに頻度は余り変わらないものがある、ことを加えるとよいと考えている。

 このドルとペトー以来ライフスタイルと言う言葉が広く用いられるようになった。それまではがんは特殊な化学物質による職業病や原爆の放射線によるがん死亡の増加が注目されていた。これに対しこの報告では、毎日の生活、食物や酒、煙草などの嗜好品などの方が、これらの特殊なものより遥かに重要であると指摘した。老化についてはこの様な分析的な研究はないが、多分ライフスタイルの範囲はもっと広く、適当な運動や頭を使うことも含まれるし、場合によってはストレスも適度ありうまく受け止められればそれなりの役に立つであろう。食事を中心としては別に紹介した沖縄の長寿などがあるが、今後さらに広範な研究が望まれる。

 この点について僅かながら私見を述べておく。初めの頃にも述べたように現在の日本人は世界一の平均寿命を誇っているので、そのライフスタイルは如何ということになる。確かにそれは日本人の平均寿命に大きく貢献しているであろう。ただし最近のライフスタイルの著しい欧米化が、どちらに働くかという問題がある。なお、ここでは従来からの日本人のライフスタイルでなお問題になる点ををいくつかあげておく。第一は食塩の過剰摂取とカルシュウムの不足である。前者は高血圧や胃癌、後者は骨粗鬆症と結びつく。ことに食塩は厚生省は一日10グラムを目標にしているが15グラムから漸次低下したと言ってもここ10年近く12グラムを切り得ない。アメリカなどは6グラムを目標にしているので、まだまだ努力が必要である。次はわが国は先進国のなかで一番喫煙率が高いことである。女性の喫煙率は幸いにして今のところ諸外国より低いが、最近の増加傾向が心配される。自動車の普及についても、日常公共運輸機関に頼らざるを得ない大都市住民の方が地方の住民より体力が優れているという成績から反省させられる。要は聖人君子になれと言うのではないが、自分の健康は自分で守る心がまえを欠かせてはならない。

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