4. 高自然放射線地域住民の染色体について 
 中国の高自然放射線地域の染色体研究は 1991 年疫学調査の開始と同時に始められました。染色体調査の被験者については全て、TLD 線量計で 3 ヶ月間またはポケット線量計で 24 時間、個人被ばく線量を測り採血時までの被ばく線量が算定されました。中国の高自然放射線地域は田舎で、人の移動がほとんどなく、また、あまり自動車が入ってこないので、大気汚染もほとんどありません。
 染色体異常は安定型と不安定型の異常があり、2動原体と環状染色体などは不安定型染色体異常といわれており、放射線に特異的な異常です。転座は安定型染色体異常といわれ、放射線、活性酸素、大気汚染、タバコその他もろもろの変異原の影響が反映される異常です。放射線に特異的な指標で、二動原体と環状染色体を見ることによって本当に放射線がそこで高くなっているかどうかが確認出来、転座を見ることにより、全変異原の影響がどれ位体 内に蓄積されているかが判ります(図 8)。

         

4.1 2動原体の解析結果

 
2 動原体は括れが 2 箇所にあります。異常染色体で、放射線に特異的な異常です。図 9 は 2 動原体の解析結果を示しています。高自然放射線地域の住民が対照群に比べて被曝線量が多くなっており染色体異常も多くなっていることが判ります。横軸に年令をとってみると(図 10)、子供の頃には被曝期間が短いので両群であまり差が出ていないが、年をとると共に差が大きくなってきます。中年以降になると有意差が出ます。これにより、放射線が高自然放射線地域では染色体に対照地域より多くの傷をつけているということが確認されました。2 動原体と環状染色体の分析により、高自然放射線地域で2動原体の頻度が増加している事が分かりました。この地域の被ばく線量は年 10mSv 以下程度ですが、普通の地域は年 2.4mSv で、それは体中の全ての細胞が一年に約一飛跡の放射線に当たる線量率となります。10mSv はその 4 倍位です。ため、高自然放射線地域の線量率ではどの細胞も数ヶ月に 1 飛跡しか放射線を浴びない程度です。これは観察された 2 動原体のほとんどが1飛跡の放射線により出来たことを意味し、放射線の染色体異常誘発線量には閾値が無いことを示しています。

          

         

4.2 転座の解析結果

 高自然放射線地域住民について転座の出現率を調べました。その結果を図 11 に示します。横軸が線量、縦軸がリンパ球中の転座の頻度、赤が高自然放射線地域、緑が対照群、大きなマークが大人で小さなマークが子供を示しています。図より、子供と大人では転座の頻度に差がありますが、両地域のあいだでは差が認められませんでした。高自然放射線地域で、2 個体が飛び抜けて高い値を示していますが、1 個体はその後の調査で医療被曝者であることが判りました。他の 1 個体は放射線高感受性の人である可能性が考えられます。これら 2 個体を含めたとしても両地域で有意差は認められませんでした。年令を横軸に、転座の頻度を縦軸にとってみると、両地域には差が無いということがさらにはっきりと解ります(図 12)。
 転座の解析結果を要約しますと、1. 転座の出現頻度は2動原体の出現頻度よりも高かった、2. 子供では個人差が小さく大人では個人差が大きかった、3. 高自然放射線地域と対照地域の住民では有意な差がなかったが子供と大人でははっきりした差があった ということになります。

            

          

4.3 まとめ

 最近、大規模な研究が行われ、リンパ球中の転座の頻度ががんや白血病のリスクを反映することが解ってきました。がんや白血病に罹っていない人の血液中のリンパ球を調べ、多くの染色体異常がある人と、あまり無い人に分け、10 年後にその人達がどうなったかということが調べられました。その結果、染色体異常の多かった人は、その後、がんや白血病になることが多いことが明らかになり、リンパ球中に出現する染色体異常が健康影響の指標となることが明らかになってきました。人は普通に生活する中で様々な変異原にさらされており、その程度には個人差があります。中国高自然放射線地域住民の場合の様に、普通の環境の 3〜5 倍程度の放射線の被曝による健康影響は、種々の変異原より受ける環境影響の個人差の範囲内であり、この程度の被曝では、がんや白血病や先天異常の有意な増加は、いくら調査人数を増やしても検出できないと予測されます。

1. はじめに2. 世界の高自然放射線地域3. 高自然放射線地域における疫学研究4. 高自然放射線地域住民の染色体についてこのページのTOP体質研究会のTOPに戻る



高自然放射線地域住民の健康調査