2002.11.1

 


菅原 努

 

23. 八十路からの健康談義(23)

 


 先日学会があってソウルへ行きました。京都よりは大分気温が低くホテルには暖房がはいっていました。すると3日目位から足の皮膚がかゆくなってきました。どうやら皮膚が乾燥しすぎたようです。早速用心に持っていた保湿性のクリームを塗るとかゆみは収まりました。近く一度皮膚科の先生に相談することにしましょう。

 実は皮膚、殊に高齢者の皮膚について多くの誤解があるようです。私がこのことを教えられたのは10年以上前に南極に出来たオゾンホールの問題に刺激されて「太陽紫外線防御研究委員会」というのを発足させて、沢山の皮膚科の先生方と知り合ったからです。今まで紫外線にあたって真っ黒に日焼けするのが健康に良いと言うのは間違っている。殊に子供の時こそ無駄な日焼けを避けるべきである、ということを皮膚科の先生方を先頭にPRを始めたのです。今日はそのことではなく高齢者の皮膚の乾燥のことをお話しようと思います。これは実は初めにも述べたように自分自身のことでもあるのです。

 それには、このようにして知り合った皮膚科教授の1人東北大学の田上八朗著の「皮膚の医学」(中公新書)から引用しましょう。

皮膚への水分補給
 かつて、アメリカの新聞の医療相談を読んでいたところ、皮膚が冬になるとかゆくなるというお年寄りの相談が載っていました。答える医者は専門医ではなく、一般医です。「冬になり、空気が乾燥するため、皮膚が乾いてかゆくなるのです」。ここまでの回答は問題ないものでした。
 問題はそれから先です。「皮膚にできるだけ水を補うよう、毎日たくさん水を飲んでください」というものでした。ナンセンスもよいところです。
 お年寄りの角層のバリア機能は、若者とくらべ決して低下していません。むしろ良いくらいです。ですから、体内から角層を通しての水の補給は望めません。たくさん水を飲んでも、皮膚の内部の真皮にたまって、せいぜい、むくみを起こすくらいで、皮膚表面の角層水分含有量にはなんの影響もありません。問題は、お年寄りの皮膚の角層では水を結びつける脂やアミノ酸の量が減っていることなのです。(中略)
 答えは単純です。いくら口から飲んでも、皮膚の表面の水分をふやすことはできない相談です。バリアが健全であるかぎり、外から水を補う工夫をしないと、皮表角層(皮膚表面の角層)はうるおいません。そのためには、塗ってから、いつまでも気持のよい保湿クリームを毎日使うことです。

皮膚の健康法
(前略)
 皮膚を掻くことや乾布摩擦は、角層や皮膚組織を傷つけ、むしろ皮膚炎を起こします。気持がよいからといって、風呂で激しくこすりすぎないように。こすっても皮膚は鍛えられず、傷つくだけです。
 石鹸やシャンプーでよく洗うべき皮膚は、微生物の多い、頭、顔、首、手足、腋の下と股です。フケや脂漏性皮膚炎、また強い体臭も防ぎます。体臭も皮膚に棲んでいる微生物が原因です。
 しかし、一日何回も風呂に入り、上に述べた部位以外のところを石鹸でごしごし洗うことは、表面角層の水分を保つ物質を洗い流してしまいます。その結果は、水分のないかさかさした皮膚をつくることになります。春から夏は問題ありませんが、皮脂の分泌の少ない子ども、女性、老人では、冬は注意する必要があります。そうでなくてもこうゆう人たちは、寒くて乾燥した冬には皮膚が乾燥しやすいので、角層に適度の水分を保つべく、いわゆる保湿剤の入ったクリームを塗り、滑らかな皮膚にしておくことも余病を防ぐもとです。一週間以上も毎日手入れをしていると、二三日くらい休んでも、効果は十分に保たれます。(以下略)

 この話を定年間じかのある皮膚科の教授にしたところ、「そうです、私などは風呂に入っても石鹸など殆ど使いません。」と言う事でした。要は年を取ったら、風呂でごしごし洗わない事、皮膚がかゆくなったら、掻かないように気をつけて、出来るだけ早く皮膚科を受診して適当な保湿剤をもらうようにすることです。