2002.2.4

 

 

14. 選択、最適化、代償

 

 

 今日は堅苦しい漢字を並べましたが、決して堅苦しいことを言おうとしているのではありません。私は外からみると相変わらず忙しく飛び回っているように見えるようで、「先生はお元気ですね、よくそれだけ動き回られますね。」と言われます。そのときの答えは「いや、決して特別に元気なわけではないのですよ。ただ要領よくやっているだけです。」というものです。

 ところが、最近「<老い>をめぐる9つの誤解」*と言う本を読んでいたら、この私の言う「要領よく」をうまく説明している言葉に出会いました。それがこのタイトルに書いた、選択、最適化、代替です。もとは英語ですからもう少し滑らかに聞こえるのでしょうが、日本語では少し堅苦しい感じがしますが、今のところこの直訳で勘弁してください。さてでは言葉の意味を説明しましょう。

 選択:人にはいろいろやりたい事、やらねばならない事があるでしょう。それを出来るだけ沢山こなしていこうというのが一般の人生でしょう。しかし、年をとって大事なことは自分の限界を知って全部でなく出来ることを選んでそれに集中するべきだということです。何を選ぶかこの選択が大事ですが、兎に角欲張らない事です。年をとれば体力も気力も知力も落ちがちです。でも何かに絞れば未だなかなか出来ると自信をもつことも大切です。そのためには欲張らないに自分で納得できるようになれば、まず八十路会への入会を認めましょう。

 最適化:前の選択は仕事のことでしたが、今度の最適化は自分のことです。人間一日のなかでも、また異なる季節でもその体調は変動しています。調子の良い時もあれば、悪い時もあります。それが年をとると一層著明になります。私は調子よく原稿を書いたりものを考えたり出来るのは午前中だけです。昼ごはんを食べたあとはもう駄目です。でも若い時にはそれだからと言って午後はお休みと言うわけにはいきません。特に会議等は午後に集中しがちです。年をとったらこれではいきません。自分の体調に合わせて仕事をする、即ち最適の条件に仕事を合わせる最適化が必要になります。私は午前中は考えを纏めたり、原稿を書いたり、積極的に頭を使う仕事をするようにし、午後は文献や本を読みながら居眠りをしています。昔はこの居眠りを自分でも困った事と思っていましたが、いまではこれは自然なことと遠慮せずにやっています。困るのは東京での午後の会議です。出来るだけ途中の新幹線の中で寝るようにしていますが、それでも生理的な日周期は変えられません。だから会議も半分居眠りのなかになりがちです。悪しからず。

 代償:これは簡単です。年をとって衰えた機能は近代科学技術で置き換えられるものはどんどん代わりのもので補っていくべきだと言う事です。眼鏡からはじまって、白内障の手術も、補聴器も、足が悪ければ車を活用するとか、遠慮なく代わりの物を使おうということです。杖など持っていると年寄りくさいからと持たずに無理をしている人もいますが、そんな格好より杖を使ってでもどんどん動く事が大切ではないでしょうか。

 かねてから自分で思っていたことが、本に書かれていたので今度は自信を持ってお勧めしようと思いました。従って項目こそ本から取りましたが書いたことは全部自分の言葉であることをお断りしておきます。

* ダグラス・H・パウエル著 久保儀明、楢崎靖人訳
<老い>をめぐる9つの誤解  青土社 2001.11.10発行

 この本には老化をめぐっていろいろと興味のあることが書かれていますので、また折に触れて紹介したいと考えています。