2002.9.5
 

2002年9月のトピックス(1)

食の効能の新評価法の確立を目指す

菅 原 努


 今日、生活習慣病患者の激増、これに伴う国民医療費の増加等は、患者のQOLの低下を含めた大きな社会問題となっています。

 これに対し、食生活をコントロールし、食品及び食品成分の生体に対する有効性を活用することにより、多くのこの分野の問題解決が可能であります。

 しかしながら、現在の食品の効果検証法は、医薬品の薬理効果評価法を準用する形で進められてきましたが、この評価検証法では、多成分からなる食品の有効性を適切に評価でません。そこで、複合系である食品の生体に対する効果をそのまま評価検証する方法、即ち、新たな食の効能評価系を構築することが必要となっています。

 この問題を議論し解決すべく、この度「食の有効性に関する新たな評価法の確立に向けて」学術研究会を発足させることになりました。9月2日に東京・港区の明治記念館にて設立総会と記念シンポジュウムを開き、会場一杯の約五百人の参加をえて盛会裡に終了しました。食の効能というのは、何々が健康によいとか、こんな痛みには何々を食べるとよいというように、食と健康との関係はしばしば語られていますが、多くのものはその科学的根拠がはっきりとしていません。また一部のものは厚生労働省の基準に従って効能が認められていますが、それは成分について薬に準じた評価基準で評価されたものにすぎません。私達が普段食べている食物の効能を評価し、それにもとづいて食を通じての健康増進、疾病リスクの低減をみんなで図っていこうと言うのが私たちの狙いです。

 私はそこで開会の挨拶として「我々の目指すところ」と題して次のような話をさせて頂きました。

 この研究会の設立趣旨については既に趣意書にも詳しく書いてありますので、ここで繰り返すことは止め、我々の目指すところをより具体的にまとめてみようと思います。

  1. 薬ではなく食の効能評価である。薬については既に立派な評価基準が確立されていますが、今までは食についてもそれを準用する形で進められてきました。しかし、本来食には食にふさわしい効能評価のあり方があるべきであると考えます。これが私たちの出発点です。
  2. 予防でなくリスク低減が目的である。特定の病気を予防する医学はありますが、より広く健康リスクを減らし健やかな長寿を目指すのが我々の狙いです。リスクには未来予測とそれに伴う不確実性があります。それらを念頭におきながら研究を進めるつもりです。
  3. 薬は病気の原因が分かってそれに対処しようということで、方法的には順問題ですので、通常の科学的方法が適用できます。しかし、リスク低減は初めに目標を立てて、それを達成するためにどのような食が適するかと言った進め方をする必要があるので、方法論的には逆問題という難しいやり方を含みます。
  4. 人の一生を考えた不確実性を含むリスク低減ですから、問題は科学的であっても科学では解けない問題(トランス・サイエンス)に踏み込まなければなりません。
  5. その上、今では医学医療でもインフォームドコンセントに時代です。ましてや人々の日常を担う食については、規制より消費者である人々の判断が優先されるべきです。その為には十分な情報公開とそれを正しく判断できる食のリテラシーが人々に求められます。
  6. このようにして、健やかな長寿を誰もが楽しめるように、新しい学術研究の展開とその成果の普及を目指してこの学術研究会を発足させることになりました。

 これらは、何れも全く新しいことでその成否はすべて如何に独創性を発揮できるかに掛かっています。しかも、ここでも述べているように我々科学者だけでは解決できない問題を含んでいます。我々の問題提起に対して、それを如何に取り上げるかどうかは市民の皆さんの理解と判断に待たなければなりません。また研究に対する各方面からのご支援をお願いします。

 独創的な評価法の開発とその評価を食生活に生かしていく方法という二つの新しい課題に率先して取り組んでいこうという意気にもえた方々が集まってこの学術研究会を作りました。皆さんのご理解とご協力を心からお願いします。