2001.7.1
 

2001年7月のトピックス
国際会議:「放射線とホメオスターシス」

菅原 努

 

 6月に引き続き放射線の話題で恐縮ですが、これはわが財団法人体質研究会がその創立60周年を記念して開催するものですから、悪しからずご了承ください。17年前に私が理事長を引き継いだときには多額の負債をかかえた赤字財団でした。それを立て直すべくいろいろと計画してみましたが、結局自分の得意な分野である放射線関係の研究を中心にすえることで、研究財団として一応国際的にも認められる財団にすることが出来ました。そのお礼の意味もあり、60周年記念事業として3年余にわたって基金を積み立て世界から先端にある科学者を招待し表題のような国際会議を7月13日から16日まで京都で開催することにしました。其の成果は国際的な出版社から年内にも発行し、放射線問題の解決に向けて役立てたいと思っています。またこれにあわせて前日の12日に財団の研究課題である「高自然放射線地域研究」のワークショップを開催し、この研究を世界の研究者の批判にさらしたいと思っています。

 さて、それはよいとして表題の「放射線とホメオスターシス」は一体何を意味するのかというご質問があることでしょう。今この分野での流行の言葉にホルメシスというのがあります。これは低線量の放射線は免疫をたかめるとか、成長を促進するとか、言うような生体に有利な作用があるということを意味しています。しかし私から言わせると生体にとって有利かどうかというのは、価値判断がはいって適当ではありません。これに対して、ホメオスターシスというのは恒常性維持ということで外界のいろんな作用に対して生体の持つ大切な機能です。放射線に対して生体は何処までその恒常性を維持できるか、発ガンはこの恒常性破壊の一つであると考えられるが、どんな微量の放射線でも発ガンに関しては恒常性が破られるのか、それと一般の恒常性維持との関係はどうなのか、と言ったことを念頭に置いて国際会議の構想を立てたのです。ホルメシスに対してよく似て非なるホメオスターシスを置いたという私の遊び心もご理解頂きたいと思います。

 しかし、正直言ってこれは放射線生物学の現状からみた大変難しい問題です。此処10年位の間にようやく今まで研究出来なかった数cGyの線量に対する生体の反応がとたえられるようになり、いままでGy以上の大線量で見たきたのとは違う新しい現象がいろいろと見られるようになりました。放射線治療では毎日2Gy程度を照射し全部で60Gy位を使います。cGyGyの100分の1です。今その意味付けについて盛んに研究が行われているところで、一部を除いて恒常性まではなかなか話が進まないのではないか、と言うのが会議の詳細を計画してくれた京大の丹羽太貫教授の率直な意見です。それでは最後の討論のまとめで私が一言ホメオスターシスに触れることで締めくくりにするか、ということで合意したような次第です。

 がんには沢山の遺伝子変異(突然変異)があります。また放射線は細胞に突然変異を起こすことが知られています。これを単純に結びつけると、放射線はまず細胞に突然変異を一つ起こす。其の細胞がどんどん増えて、途中にさらに突然変異を重ねだんだん悪性化して人を殺すがんになる、という物語が出来上がります。でも最初に出来た変異細胞は生体の恒常性維持機構によって排除されるということはないのでしょうか。他方確かにがんは一個の細胞から出発しているようです。この一見矛盾に見える点に大きななぞが隠されているように思えるのですが。最近この点の議論もみられるようになりました。議論が熟すのにはもうすこし時間が必要かも知れません。

 この国際会議で何が起こるか、それはやってみないと分かりませんので、また8月に報告することにします。

 なお、この国際会議のプログラムなどは、http://www.gakkai.net/ISRH/にあります。ただし申し訳ありませんが、全部英文です。