2000.4.13
 

ハイパーサーミア(癌温熱療法)は本当に有効か?
4月のトピックス 臨時増刊

 

菅原 努1)、松田忠義2)

1) (財)体質研究会 
2) (財)東京都保健医療公社:多摩南部地域病院

 

 去る4月4日の夜のことでした、アメリカのミネソタ大学のソン教授から菅原のところに電話がありました。「知ってますか今アメリカではハイパーサーミアの有効性がとうとう証明されたというので一寸した騒ぎになっているのですよ。」「え、それは一体どういうことですか。」「オランダの人達が子宮頸癌の無作為臨床試験でハーパーサーミアの併用が放射線単独より良いという論文をLancet誌*に発表したのです。」「でもそんな研究なら日本では既に関西医大のグループ(播磨洋子ほか)がCancer誌**に発表してますよ。」「矢張りLancet誌という一流誌に出たところが意味があるのでしょう。兎に角コピーをfaxで送りますからみて下さい。」「有り難う、さようなら。」と言った次第です。

 丁度この前の日私達は4月の終わりに韓国で開催される国際ハイパーサーミア学会で菅原が座長で松田が行う特別講演について打ち合わせをしたところでした。その主な点は、最初大いに盛り上がった研究熱がいまや下がり気味にあるのをどうしてもう一度盛り上げるかということでした。このソン教授の電話はこの点について二つのことを考えさせてくれました。

 一つは、ハイパーサーミアのような新しい治療法の有効性をどのように評価するかということです。私達日本では、この方法は「(1)科学的な原理からみて有効性は十分評価出来る。(2)臨床で従来の方法では難治と考えられていた腫瘍を治療することに成功した多くの例が報告されている。このことは無作為試験を倫理的に難しくした。(3)それでも、表在性の腫瘍について無作為臨床試験が行われ、その有効性が証明された。(4)このことは他の部位でも加温さえ十分であればその有効性は認めてしかるべきである。」という考えで、厚生省にも申請し保険適用が認められています。その後追加して上のCancer誌のようなものも出ており今更何をという気持ちでこの電話を聞きました。私達はこの考えに基づいて、ハイパーサーミアの普及をはかる為に、松田が中心になって「難治癌への挑戦:ハイパーサーミアの臨床」(医療科学社)という症例を中心とした本を昨年出版したばかりです。ところが、欧米では兎に角それぞれの部位疾病について無作為臨床試験で認められない以上有効性は認めないということを鉄則にしているようです。この点は今後の大きな課題でしょう。

 それでも今までの経過は兎も角として、欧米もハイパーサーミアの有効性をようやく認めるようになったということ、しかもそれが一流医学誌を通じて広く知らされたということは大いに喜ぶべきことではないでしょうか。これで日本の一部の批判的な人も有効性に賛成せざるを得なくなるでしょう。子宮頸癌のように身体深部にある腫瘍について成功したのは欧米の装置ではこれが初めてですが、日本で開発された装置では子宮頸癌のほか肝臓、膵臓、胃などの腹腔の腫瘍や肺、食道などの胸腔の腫瘍も加温治療が可能です。この機会を逃さずにハイパーサーミアの熱をもう一度盛り上げる努力を欧米の学者と手を取り合って進めるべきではないでしょうか。韓国での国際会議ではこれを新しい出発点とし、殊にアジアから新しい波をと言うことで呼びかけたいものです。それが世界のがん患者さん達の福音になることを祈っています。

 

*Jacoba van der Zee et al.: Comparison of radiotherapy alone with radiotherapy plus hyperthermia in locally advanced pelvic tumors: a prospective, randomized, multicentre trial. Lancet 355:1119-25, 2000.
**Y.Harima et al.: Bax and Bcl-2 protein expression following radiation therapy versus radiation plus hyperthermia in stage IIIb cervical carcinoma. Cancer 88:13208, 2000.