1999.10.1

 
   
  4. 放射線はどのように生体に働くのか:線量とは何か
 

 

 X線で見られるように、ここで言う放射線は人の体を通りぬけます。これは実は生体を作っているもとの原子自身に大きな隙間があるからだと3.のところで説明しました。その時に普通の光などは地上部隊のようなもので、お城から遠くに出ている斥候か出城に阻まれてそれ以上なかに入れないが、エネルギーの高い飛行機であればそれらを乗り越えてお城に迫れると説明しました。そこで放射線が飛行機のようにお城の上空を素通りするだけであれば、お城には何の実害もないわけです。飛行機が何機襲来したかと言うことではなく、どれだけの爆弾をおとしそれがどれだけお城に命中したかが問題です。同じように、放射線のように生体を通りぬける性質のものでは生体に当たった量ではなく、生体にどれだけのエネルギーを落としていったかが問題です。これを薬の用量との類推で線量と言います。

 X線γ線のように光と同じ電磁波の場合には、前にも説明したように主に原子核の周りを回っている電子との衝突でそのエネルギーの全部または一部を失います。こういして原子から電子が叩きだされると、その原子自身は電子のマイナス電荷を失うにでプラスのイオンになります。またこおして叩き出された電子はまた次の原子の電子と衝突してそれを叩き出します。そこのまたプラスのイオンができます。このように次々とイオンを作っていく、即ち原子の電離状態を作るので、これを光などとの対比で電離放射線と言います。光は電子を興奮状態にすることで反応を起こしますが、X線γ線は電離のよって作用を起こすというわけです。同じような働きをするものに電子線であるβ線やヘリウム原子が飛んでいるα線があります。これらも電離作用をもちことは同じですがX線γ線にくらべて電子との衝突の機会が高いのでそれだけ透過性が悪く、その代わり短い距離の間に大きなエネルギーをおとすという特徴がります。それに深入りすることはここでは止めておきましょう。

 生体の場合にはこの電離がDNAや蛋白などの生体分子そのものに生じることもあるし、生体に沢山ある水の分子に起こり活性の高い分子を作りそれが間接的に生体分子に働くこともあると、考えられています。前の方を直接作用、後の場合を間接作用と言います。普通はこの両方が働くと思われますが、その割合は時と場合によって異なるでしょう。このようにこれらの放射線は電離を通じて作用をしますが、普通に遭遇する放射線では原子核にまでその破壊作用を及ぼすことはありません。すなわち普通の原子を放射性の原子に変える作用はありません。よく放射線が当たると後に放射性物質が残るのではないかと言われるのは間違いです。

 線量の単位は最近ではグレイGyが使われています。1Gyとは1Kgの組織に1ジュールJのエネルギー吸収があったということです。この単位をもお少し分かり易くしてみましょう。食べ物などで良く聞くカロリーから考えてみましょう。1カロリーというのは14.5度の1gの水を1度温度を上げるのに必要なエネルギーです。この1カロリーは4.186ジュールですから1Gyとはどんなに小さい量であるかは想像つくでしょう。しかもよく問題になっているのは、cGyとかmGyという値ですから、エネルギーとしては本当に僅かなものです。それだのに、数Gyで人が死んだり、cGyでがんが出来るかどうかが問題になるのは何故でしょうか。それをこれからおいおいにお話していきたいとおもいますが、それが放射線生物学の一番面白いところでもあるのです。

 

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