2000.11.1

 
   
 

21.がん予防は本当に成功したか:がん予防の実際

 

 

 がんは現在死因の大きな部分を占めていますから、この死亡を防ぐことは国としても重大な目標です。この時人々の関心はともすれば環境発がん物質や放射線のようなものに向かいがちですが、前回述べましたように実は喫煙、食事などが遙かに大きな部分を占めていることがDollとPetoの研究で明らかになりました。放射線の役割については次にゆずることにして、この10年間位にがん予防としてどんなことが行われたか、その結果はどうかについて纏めてみたいと思います。

 先ず、アメリカでも日本でもがん予防の為の生活指針が出されました。例えば、がん予防の12ケ条というのを知っておられるでしょう。これは12条もあって大変ですが、アメリカでは「毎日野菜か果物を5種類以上食べましょう」というポスターをよく見掛けました。アメリカではこのような啓蒙運動と平行してがん化学予防研究というのが積極的に進められました。これは有効と考えられる食品成分や化合物を動物、次いで人に長期にわたって投与して本当にがん予防が出来るかどうかを明確にしようというものです。例えばβカロチンを投与した群と偽薬を投与した群とを7、8年から10年にわたって観察してその発がん率を比較するといった研究が幾つも行われました。それまでの疫学研究の成果からはこのβカロチンの摂取が多い人はがんが少ないと考えられてきたのですが、主に喫煙者についての結果では意外にもβカロチンはかえって肺がんを増やすということになりました。その他大腸がんの予防研究などは我が国でも行われるようになりましたが、動物ではうまくいっても、なかなか人では難しいようです。アメリカでは一般に脂肪の摂取量が多いのでそれと乳がんとの関係が何時も議論になり、脂肪摂取を現在の全カロリー当たり40%を30%に下げて本当に乳がんが減るかどうかという研究をするべきであるという提案が何度も出されては実現しないで終わっています。それは日本円で言うと一兆円を越すくらいの巨額の経費がいる上に、本当にそんな長期間にわたって食事を変えることが実現可能かどうか、それをうらづける証拠をどうしてとるか、など議論が尽きないからです。

 こんな状況にも係わらず、アメリカでは1996年頃から1990年をピークにして、それ以後がん罹患率も死亡率も低下してきたと報告されるようになりました。アメリカではこれをがん研究の成果と大いに喧伝しています。しかしその大部分は医療の進歩(-3.0)と喫煙率の低下(-2.0)によるもので、ライフスタイルはどの改善によるもの(-0.4)は極わずかです。( )内の数字は10万人あたりの死亡率の変化を表します。

 我が国ではがんは増えていると言われながら、未だ適切な手は打たれているようには思えません。


(お断り)当初の予定を変更して次回に放射線との関係を論じ、一応の締めくくりとする。来年2001年には構想をあらたにした講座を始めるべく準備に懸かっている。引き続きご愛読をお願いする。

 

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