2000.10.1

 
   
 

20.がん予防は可能か:
   大部分のがんは予防できるはずであるという根拠

 

 

 今まで放射線を受けるとがんのリスクが増えるということを問題にしてきました。でもがんは放射線を受けなくても出来ます。だから一度放射線を離れて広くがんの原因を見てみたいと思います。がんの原因は未だ分からないことが多いのですが、理論的には大部分のがんは予防出来る筈であると言われています。何故原因もはっきりとしないのにそんなことが言えるのでしょうか。これは1980年に発表されたイギリスのDollとPetoという二人のがん疫学の大家がアメリカの依頼で行った研究成果*によるものです。

 彼等はがんは予防できるという根拠を主にがんの疫学データから4つ挙げていますが、私はそれにもう一つ加え次の5つを挙げたいと思います。

1) 同じ国でもがんの種類とその頻度は時と共に変わる。これは今更説明しなくても最近胃がんが減って大腸がんが増えたとか、子宮頸がんが減って乳がんが増えたというようにわれわれもよく知っていることです。

2) 国によって同じがんでもその頻度は大きく変わる。これも日米比較などでよくご存知でしょう。

3) 日本人がアメリカに移住し、一世二世と進むと共に、がんの種類と頻度が日本型からアメリカ型に変わります。同様の移民の研究がいくつかあります。これは遺伝より環境の方が大きくがんに影響していることを意味します。

4) 同じ国のなかでも生活条件によってがんのパターンが変わります。これは英国のような社会階層が分かれているところで、よく見られています。例えば上の社会階層には乳がんが多く子宮頸がんは少ないのですが、下の階層ではそれが反対になっています。

5)がんとしての発病率は大きく変わっても、剖検で初めて見出される頻度には余り違いがないことがあります。これは私が加えたものですが、代表的なのは前立腺がんでその頻度は日本人とハワイ日系人とは倍近く違いますが、剖検で見つかる潜在がんの頻度は殆ど変わりません。そして最近では日本人の頻度も増加しつつあります。

 なるほどこれを見れば少ないものが増えたというものについて、その原因が分かればそれを除くことによって、その増加を防ぐことが出来るはずです。しかし残念ながらその増加の原因はまだ明確には捕まえられていません。DollとPetoはこの原因に占める生活習慣の割合が大きいと推測し、喫煙30%、食餌35%、飲酒3%などと推測しています。環境汚染(2%)や職業(4%)はこれらに比べて普通考えられるほど大きくはないとしています。

 その後食餌や生活習慣についての疫学研究がすすみ、がんを減らす食餌成分などが示されるようになり、それに基づいてそれらの因子を修飾することによるがん予防の研究が始められました。それについては次号に述べることにします。


*これは次の形で翻訳出版されています。
Doll & Peto(青木国雄、大野良之訳):ガンはどれだけ避けられるか
名古屋大学出版会 1991年発行

 

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