2000.7.3

 
   
 

17.放射線防護の生物学的基礎は何ですか:
   発がんリスクを推定するには

 

 

 1977年にICRPは、それまでの問題を整理し容認出来るリスクにまで放射線を抑えるという方針を打ち出しました。がんの死亡率が放射線によって増えるというのはその確率が増えることであるからこれを確率的影響と呼ぶことにしました。そしてこれを障害としてはがんリスクと呼びます。これに対して皮膚の傷害とか白内障などは線量がある値を超えるとみんなの人に起こるので、これを確定的影響として区別します。線量が低くなれば問題になるのは確率的影響だけになります。すなわち、がんリスクを何処まで抑えればよいかということです。

  ICRPはこのリスクは線量に比例するとして広島・長崎のデータをもとに計算しました。本当にリスクが線量に比例するかどうかは確証がありませんが、こう仮定することはリスクを多い目に見積もることはあっても過小に評価することはないであろうから防護上は安全側になるとしてこのことが受け入れられました。この考え方ではリスクをゼロにするのは線量をゼロにしなければなりませんから、そんなことは出来ません。あるレベルまでのリスクは認めざるを得ないとすれば、それをどうして決めるのかという問題が生じます。1977年にはこれを一般職業の死亡リスクと同じレベルにすると考えることにしました。その結論は放射線職業人の年間線量限度は5レムであるということです。線量限度という新しい表し方で越えてはならない限界を示し、通常はそれより十分に下にあるものと理解されています。

 この勧告は一般に広く受け入れられ世界中がほぼこれに準じた形で防護を行われてきました。ところがその後広島・長崎のデータが更に新しくなりそれによるとがんリスクが更に大きくなるとICRPは考えました。そのことを含めて1990年に新しい防護の勧告を出しました。細かい事は省略してその後問題になっている点にしぼって説明します。広島・長崎のデータは比較的大きな線量のしかも短時間の照射ですが、そこで計算したがんリスク値が日常に遭遇すような低い線量でも当てはまるとし、しかもそれには生物学的にも根拠があるとしました。それは、放射線は細胞のDNAに傷をつけ、それは大部分は修復されるにしてもどうしても修復出来ないものが残り、それがもとで突然変異が起こり、そのなかにがんに結びつくものがあり、それからがんが生じるとすれば、がんのリスクは線量に比例すると考えざるを得ない、というものです。以上のことを根拠にして職業人の線量限度を年間20mSv、または若干余裕を見て5年間に100mSvとしたのです。

 この勧告はその後世界に大きな議論を巻き起こしましたが、議論は議論として防護の規制の方は昨年あたりからこの勧告に従った線に改訂されつつあるというのが、世界の大勢です。議論はあってもこのICRPの説に代わる新しい説が認められるに至っていないというのがその理由です。その議論は生物学的にICRPの言う根拠は本当に正しいのかという疑問が中心ですが、ICRPも批判を受けて昨年当たりから正式に今の1990年勧告をもう一度見直し、根本的な改訂について検討をはじめたようです。これらの点について次回以降に説明します。

 

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