2000.4.3

 
   
  14.放射線でがんが出来ると言うが昔と今と出来方は違うのか:
   傷害から障害を経てリスクへ
 

 

 今から100年以上前の1895年にレントゲン博士がX線を発見しました。これが人体をすかして見えるということで世界中で評判になりました。多くの人が装置を作って透視実験をしました。そうした人の中から皮膚がんが出来それが転移して亡くなった例が1904年に初めて報告されました。それ以後もその様な例が続きましたが、1915年頃からX線防護の必要が言われるようになり、取扱者のがんは次第に減ってきました。それでも1959年に発行された世界の職業性放射線犠牲者の顕彰書には360名の名がのっています。その中には我が国の28名の名も含まれています。

 また1920年代には別の職種の人々の放射線障害が明らかになってきました。その代表的なものは、夜光時計の文字盤塗工のラジュウムによる骨肉腫で、これが後にラジュウムによる発がんの線量効果関係の貴重なデータになりました。1930年になるとそれまで鉱山労働者の職業病として知られていた肺疾患の中に放射線を原因とする肺がんあることがはっきりしてきました。これが今のラドンの問題に繋がっているわけです。

 他方X線は皮膚傷害を起こすことから、その生物作用が認められがん治療を初めいろんな病気の治療に試みられるようになりました。それが長い潜伏期を経た後にがんを起こすことが分かって来ました。それが皮膚に障害が見られる位の10Gy以上のもの以外に、数Gyの場合でも統計的にがんの増加が見られることが1955年に報告され、以後放射線治療は原則として悪性腫瘍の治療に限られるようになりました。

 この統計的に放射線によるがんの増加を調べるという方法は放射線疫学と言われるようになり、原爆被爆者をはじめ、いろいろの被曝集団に試みられました。それで放射線を受けると10年、20年という長い潜伏期の後に普通に見られる殆どのがんの頻度が増加することが分かりました。但し血液のがんである白血病だけは例外で潜伏期が数年と短く5年から10年位に増加の山があります。しかしがんの増加の程度は1Sv当たり生涯で5%と見積もられていますので、相当に線量があり人数も多くないと検出は難しいものです。従って現実に100mSv以下では増加が証明されていません。たばこの場合は日常の喫煙で肺がんが5〜10倍増えると言われていますから、放射線より遙かに強力です。

 それでももっと少ない放射線量でもがんが出来ると言われているのは、どういうことでしょうか。それは現実に統計的に証明できない位の線量でも、線量対発がん関係の式を仮定して発がんまたはがん死亡率を計算しそれをがんリスクとして表しているものです。その時に本当の関係式は今のところ分かりませんが、国際放射線防護委員会はリスクが多い目に出ることはがん防護から言えば安全側にあると考えて直線関係をとっています。従ってこれはあくまで理論上のもので、数mSvを受けてもがんの増加を証明することは不可能です。それでも1mSvを公衆の線量限度としているではないか、と言う疑問が出るかと思いますが、詳しい議論は後に譲ることにして、取りあえずは交通規制における速度制限のようなものだと考えて下さい。設備を作るときにそれを基準に十分安全をみて作れということだと考えておけばよいでしょう。

 以上の議論を最後に表にまとめておきます。

表1 放射線障害の歴史に見る疾病からリスクまで

時期
I
II
III
IV
1896-1924
1906-1960
1960-
1965-
障害の型 疾病
disease
傷害
Injury
障害
hazard
危険度
risk
調査方法 症例調査
case study
症例対照研究
case-control study
コホート研究
cohort study
理論的推定
theoretical estimation
対象者 初期X線技師 X線治療患者 胸腺肥大予防、
原爆被爆など
職業人、一般公衆
線量域 cGy >10,000 >2,000 50−500 <5/年
備考 放射線による特異な症候群 因果の明確な放射線がん 統計的にのみ証明されるがんの増加 線量効果関係を仮定して計算

 

 

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