2015.6.1
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 2より)

 

蒲生 猛 著
『第 4 次情報革命と新しいネット社会』


コモンズ ¥2,100+税
2014 年 11 月 5 日発行 ISBN 978-4-86187-118-4

 

 

 本書のタイトルの第 4 次情報革命は 20 世紀後半の「コンピューターの発明」に起因しているが、歴史をさかのぼって、第 1 次情報革命は紀元前 6 世紀頃のメソポタミア地方での「文字の発明」、第 2 次情報革命は紀元前 1300 年頃のギリシャでの紙の利用による「本の発明」と写本の流行、第 3 次情報革命は 15 世紀中頃のヨーロッパにおける「印刷技術の発明」と本の大量流通などに区分されている。第4 次情報革命は 3 世代に分けて考察している。1960 年代の第 1 世代では、コンピューターの能力拡大を指向し、大型コンピューターに知能専門家集団を派遣し、大企業での垂直型の管理組織を発達させ、「価格の二乗に比例する性能向上」を目指したグロッシュの法則を紹介している。1980 年代の第 2 次世代では、「半導体の集積度は約 2 年で倍増する」とのムーアの経験則通り、LSI(大規模集積回路)のチップを小型の汎用コンピューターに搭載し、一般化して中小企業での利用を促進し、1990 年代の第 3 世代では、そのソフトウェアを開発して、個人のコンピューターを水平的通信網(ネットワーク)でつなぐパソコンが台頭し、IT(インターネット)産業の劇的な構造変換が始まる。この間 1971 年には、ソ連邦ではコンピューターを利用した全国的自動化システム構築を目指したが、その垂直的な政治支配と本来水平的な市場原理を内包したネット社会との矛盾が露呈し、1991 年にはソ連邦の計画経済が崩壊している。

 IT 情報革命は、2008 年現在で、世界中 16 億人をネットで国境を越えて繋ぎ、双方向の交信で一般消費者を直接対象としたビジネスを立ち上げた。それは知識資本主義経済システムの成立とも言えるもので、生産産業を情報化によって質的に変化させ、市場をガラス張りにし、商品知識をグローバルに共有し、個人ビジネスの機会を拡大させた。しかしそこでは、消費・生産情報の分類能力と、それを体系化する知識と、その本質を見極める能力が要求されるだけに、様々な光と影が生じている。これまでの新聞・雑誌・ラジオ・映画の様な一方向性の発信(マスメディア)と異なり、IT は双方向性であるため、(1)マスコミ情報の独占を崩壊させると共に、(2)多様な情報の選択を可能にしたが、(3)日常生活の域を出ない交信が増え、(4)膨大な情報量を前に個人に無力感を与えて人間性を喪失させるなどの光と影が交錯する状況である。IT 社会の未来は極めて不安定で、フェイスブックやツイッターなどの無償の社会的ネットワークサービス(SNS)などの蔓延している現在、(1)特定の集団への知識の偏在を許すのか他人との共有を享受するのか、(2)超強権的な監視社会の出現を許すのかロボットも含めた相互扶助の社会を構築するのかが問われている。著者は、小規模の個性豊かな知識創造集団の緩やかな結合による自律的な発展に、第4 次情報革命の未来を託している。

山岸秀夫(編集委員)