2015.3.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 1より)

 

ギルバート・ウエルチ, H. 他 2 名 著(北澤京子 訳)

過剰診断−健康診断があなたを病気にする


(株)筑摩書房 ¥ 1,700+税
ISBN978-4-480-86434-5

 

 

 本書では、アメリカでの過剰な健診に警告を発している。先ず高血圧による脳出血や心筋梗塞などを避けるため、軽度の異常値であっても薬の服用を勧めることの誤りが指摘される。高度の高血圧症は治療すべきであるが、問題は軽度の場合である。低血圧による転倒の副作用がある上に、以前は正常とされた軽度の高血圧の人も高血圧症として治療対象に囲い込み、無駄な医療費の出費があるとする。このような過剰診断は糖尿病、高脂血症、骨粗鬆症でも起こっており、委員会が正常値を低くする度に、それまで正常とされた人が患者となる現象が起きると警告する。そしてこのようなボーダーラインの人が薬を服用しても、もともと病気ではないので病気は起きないにも拘らず、あたかも薬の効果のように見なされる。また CT や MRI などの画像診断の普及で軽微な異常も発見されるようになり、症状がなくても胆石、膝軟骨損傷、椎間板ヘルニア、腹部大動脈瘤などと診断され、精密検査や不必要な治療が行なわれる弊害が述べられている。

 なかでも著者が注目しているのが癌のスクリーニングである。前立腺がんで行われる PSA 検査の副作用として、必要のない生検や手術による後遺症が起こる不利益である。これは大規模追跡の結果、PSA 検査をしても死亡率は下がらないので、検査は不要としたアメリカ政府部会の声明とも関係することであろう。乳がん検査のマンモグラフィーについても、検査によって乳がんと診断される患者の増加にも関わらず、むしろ乳がんの死亡例は減少気味であるとの統計結果から、この検査が過剰診断を導くと警告している。

 更に日本でも始まろうとしている遺伝子検査が、将来罹るかも知れない重い疾患に対する不安を引き起こすことや不必要な検査や治療につながることを危惧している。本書執筆の時点では起きていなかったが、女優アンジェリーナ・ジョリーさんの遺伝子診断による乳房切除に対して、著者はどのようなコメントをするか知りたいところである。

 本書執筆に携わった 3 名の医師は、過剰な健康診断が疾患を発見したい医師の職業意識や病気を見逃した時の訴訟を恐れるという動機だけでなく、病院経営の経済的理由や製薬会社や医療器械会社の意向による不純な動機があることを多くの資料で示し、健診の意義を十分に理解した上での理性的な対応を望んでいる。わが国でももって他山の石とすべき意見であろう。

本庄 巌(編集委員)