2015.3.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 1より)

 

梅原 猛 著

親鸞「四つの謎」を解く


(株)新潮社 ¥2,200+税
2014 年10 月25 日発行 ISBN978-4-10-303024-9

 

 

 本書でまず驚かされるのは、90 歳になる著者が親鸞関係の膨大な文献に目を通し、関東はじめ親鸞ゆかりの地の実地調査を行ったうえで 300 頁余の本書を執筆された明晰な頭脳と体力の持ち主であることである。その原動力の一つが著者の青年のような謎解きの好奇心であることが本書でよく分かる。ちなみに親鸞自身も当時としては稀な 90 歳という長寿を全うしておられる。

 浄土真宗の祖である親鸞は浄土宗の法然と共にそれぞれの宗教団体の開祖として神格化され信仰の対象になっているが、著者は史実に即して冷静に親鸞の実像を追い求めてゆく。著者が設定した四つの謎は、わずか 9 歳という幼い時期に出家をしたのは何故か、将来を約束された比叡山での修業を 29 歳で止めて法然に入門したのは何故か、出家者では禁じられている結婚をしたのは何故か、これに関連して親鸞研究者に否定されている玉日という女性との最初の結婚の謎、そして四つ目は歎異抄にも述べられている悪人も救済されるとする教えの謎である。これらの謎を解く鍵としてこれまで本願寺派の歴史学者によって偽書とされてきた、「親鸞聖人雅昭伝」が親鸞の曾孫、存覚によって書かれたものであると確信してこれを証拠立てて行く。

 四つの謎のうち三番目の結婚の謎以外はほぼ予期した解答であったが、親鸞の最初の結婚相手が恵信尼ではなく、法然上人に帰依した摂政九条兼実の娘、玉日であるとの答えは本書で初めて知った。これは先の「正明伝」をはじめとする文献の綿密な解釈と基本資料となる「尊卑分脈」の記録、そして関東の寺でらの調査で明らかにされる。何故本願寺派学者が玉日の存在を否定するかについて氏は触れられていないが、恐らく教義上の理由があるものと思われる。また「親鸞は源頼朝の甥に当たる」という、西山深草(仮名)氏による大胆な説が紹介され、梅原氏はその新説の当否には言及されていないが、この西山氏は筆者の旧友でもあり彼のこの分野での活躍を喜んだ次第である。

 宗教上の巨人、親鸞上人の事跡を明らかにする今回のような場合でも、梅原氏は自然科学者の様にデータを虚心に読んで自ら立てた仮説を実証して行かれており、これまでの氏の書物と同様、梅原ワールドに引き込まれてゆき、巻置くあたわずといった書物であった。

 

本庄 巌(編集委員)