2015.3.2
 
Books (環境と健康Vol.28 No. 1より)

 

池上 彰 著

池上彰の「日本の教育」がよくわかる本


株式会社 PHP 研究所 ¥ 620+税
2014 年 5 月 22 日発行 ISBN 978-4-569-76174-9

 

 

 本書は、現在の日本の初・中等教育について、長年の NHK 報道記者の経験を活かして、フリージャーナリストの目線で分かりやすく問題点を追い、これからの長寿社会を生き抜く力を、子どもたちにどのようにして身に着けさせるかを考えさせるものである。すなわち教育について考えることは、日本の未来を考えることである。しかし教育は変えてから結果が出るまでに時間がかかる。例えば、学校で教える内容を決めている「学習指導要領」の改訂にも、少なくとも 10 年はかかる。それなのに、識者の思い込みで場当たり的に教育政策が変わり、「ゆとり」と「詰め込み」を行き来しているのが現実である。
 著者は、(1)教育の戦後史、(2)教科書、(3)通知簿と偏差値、(4)先生、(5)いじめと道徳、(6)教育委員会と文部科学省、(7)PTA、(8)学校給食、(9)学校制度の新潮流、(10)教育費と教育格差、等の諸問題に分けて問題点を指摘し、理想の教育について、「たった一つの正解」があるわけでなく、「自分の頭で考えさせる」教育の大切さを世の大人たちに痛感させるものである。

 敢えて本書から問題点を取り出すとすれば、大学の教育学部には、「教育学」部と「教育」学部の 2 種類存在するのが現実であり、前者は「教育学」を研究する学部で、後者は「教員を養成する」学部である。医学部にも、「人間の病気」を研究する基礎医学と、「個々の患者」の病を治療する臨床医学があるように、両者は、理論と実践、総論と各論の関係にあり、密接な相互交流が要請されるはずである。本誌の「サロン談義 12:現在の教育問題を考える」で取り上げられたように、現在子どもたちは教育環境の激変に曝されている。今こそ、かつての日本教職員組合主導の「教育研究集会」の長年の歩みに対する評価も踏まえて、直接子どもたちに触れあう現場の教職員の目線で見た「臨床教育学」の再構築が求められているのではあるまいか。

山岸秀夫(編集委員)