2014.12.1
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 4より)

 

佐藤眞一、高山 緑、増本康平 著

老いのこころ−加齢と成熟の発達心理学


(株)有斐閣 ¥2,000+税
2014 年 6 月 10 日発行 ISBN 978-4-641-22016-4

 

 

 国連の定義によると、総人口に占める65 歳以上の比率、すなわち高齢化率が 7 %を超えた社会を「高齢化社会」、その 2 倍の 14 %に達した社会を「高齢社会」と呼んでいるが、わが国では1970 年に「高齢化社会」となり、1994 年には「高齢社会」となった。そして 2007 年には、その高齢化率は3 倍の 21 %に達し、「超高齢社会」となった。2012 年の統計では、90 歳以上の超高齢者は 150 万人、100 歳以上の百寿者が 5 万人である。

 本書は、若手、中堅、ベテランの 3 研究者による、高齢化の社会的側面と老化・加齢の個人的側面に関する考察であって、3 部からなっている。すなわち第 1 部「老いを包む社会」、第 2 部「老いのこころのメカニズム」、第 3 部「老いて、生きる」であり、その具体例が 12 のコラム欄に示されている。第 1 部で注目したのは、ハヴィガースト(Havigharst, 1953)の発達段階モデルで、人生を乳児期、児童初期、児童中期、青年期、中年期、高齢期の 6 段階に区分し、各段階での課題を達成することにより、次段階への適応を可能にするとのことで、高齢期では人生を生き抜いてきた体験と英知によって、喪失を新たな獲得の機会として適応できることが示唆されている。第 2 部での注目点は知的能力の階層性を想定し、頭の回転の速さや思考の柔軟さに対応する流動性知能と言葉の理解・運用能力や一般常識に代表される結晶性知能に分け、高齢期の流動性知能の低下は結晶性知能によって補うことが出来る可能性を指摘している。第 3 部は超高齢者に対する論考で、自立生活の可能な人はその 2 割に過ぎないので、家族介護という神話を脱し、介護の専門家と近隣の人々によって支えられるコミュニティケアの実現を課題としている。

 本書は、人生を心身の成長と老化の相反する側面が同時に生起する動的過程として捉えた、「高齢期の発達心理学」として高く評価されてよい。

       

山岸秀夫(編集委員)