2014.9.1
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 3より)

 

品川正治 著

激突の時代 −「人間の眼」vs.「国家の眼」


(株)新日本出版社 ¥1,900+税
2014 年 1 月 10 日発行 ISBN 978-4-406-05365-5

 

 

 著者は大正末期に生まれ、昭和の激動期を一貫して体験した貴重な戦中派である。すなわち 1944 年旧制第 3 高等学校在学中に、「国家の眼」によって学徒動員で中国大陸での実戦を体験し、敗戦後「人間の眼」で見た「平和憲法」に開眼し、東京大学を経て労働組合活動に専従した後、旧日本火災海上保険株式会社に職場復帰し、その後身の(株)日本興亜損保の社長・会長を経て、1993〜1997 年には経済同友会専務理事として財界で活躍し、昨年(2013 年)その波乱万丈の異色の人生を 90 歳で終えられた。本書の第 1 部は、2012 年に米寿を迎えられた著者が、喜寿を迎えたかつての教え子に語った「社会科の授業」の記録であり、第 2 部は 2008 年から「九条の会」の要請に応じて始められた、ほぼ 200 回の講演を基に自ら編集されたものである。本書は遺著とはいえ、「まえがき」から、末尾に 2013 年春と記されている「あとがきに代えて」まで全てご自身でまとめられた、将に人生有終の美を飾るにふさわしい集大成である。戦争地獄を実体験された後、別世界の財界リーダーを務められ、両極に通じた先輩の提言には重みがある。

 評者は著者より 10 年の後輩であるので、第2 次世界大戦に関しては、侵略者(加害者)よりも被災者としての意識が先立つ。それでも、もう焼夷弾の降ってこない 1945 年 8 月 15 日の焼け跡から見上げた青空の記憶が鮮明によみがえってくる。子ども心に生じた「国家の眼」から「人間の眼」への価値の転換である。

 著者は、世界にただ一つのわが国が世界に誇れるものは「平和憲法」であって、これこそ戦後 70 年間、戦火を他国と交えず平和を守り通してきた「人間の眼」の原点であるとする。「国家の眼」で見たとき、現在の日本の平和は米国の核の傘によって守られてきたとの考えもあり、そこから「集団的自衛権」論争に見られるような第 3 次世界大戦へのきな臭さが漂ってくる。現在の懸案である日中、日韓、日朝の外交問題に対しても、「国家の眼」としての武力でなく、「人間の眼」としての友好条約の締結を目指すべきであろう。遠く遣唐使の例を引くまでもなく、日本は東アジア大陸文化の中で育て上げられてきたのは間違いない。近視眼的な利害にとらわれることなく、第 2 次世界大戦の大陸侵攻に贖罪する「人間の眼」をもって、各国との歴史認識を共有することが不可欠ではなかろうか。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」との日本国憲法前文は、「崇高な理想」かもしれないが、その目的の達成に努力するのはまさにグローバルな時代の要請ではなかろうか。

山岸秀夫(編集委員)