2014.6.2
 
Books (環境と健康Vol.27 No. 2より)

 

エベン・アレグザンダー 著(白川貴子 訳)

プルーフ・オブ・ヘヴン、脳神経外科医が見た死後の世界


(株)早川書房 ¥ 1,700+税
2013 年 12 月 15 日発行 ISBN978-15-209408-7

 

 

 臨死体験の報告は多いが、全米で 200 万部を突破した本書「天国の証拠」は、ハーバード大学医学校の脳神経外科助教授の経歴を持つ著者が髄膜性脳膜炎による臨死体験で天国があることを実感して、その医学的根拠を述べた点に特徴がある。

 ある日突然痙攣の後意識を失った彼は、診断がつかないままに入院するがそれが極めてまれな細菌による髄膜炎であり、回復の可能性が低く回復しても後遺症が残るだろうという医師団の診断を受ける。どのような抗生剤も効かずほぼ絶望視されるが、1 週間目に突然覚醒しやがて意識が戻り、その後は後遺症もなく回復する。

 その間に彼が見たさまざまな不思議な光景を彼は正確に記憶しており、それを詳細に記述して行く。初めは暗い不気味な洞窟のような所にいたが、やがて光に包まれた美しい世界に出て行き、更に優しい女性に伴われて天空に舞う喜びを得る。まさに天国の様子が描写される。その後は来た時と同じ経路を通って現実世界に戻ってくる。天国で彼が遭遇した女性は、まだ一度も会ったことのない早世した妹とされ、ここでも彼は天国の存在を信じるようになる。そして彼は自分の体験がこれまでの臨死体験とは違うことを医学的立場から説明して行く。その根拠の核心は髄膜炎では大脳皮質の全てが侵されているので、彼が見たり聞いたりしたことは脳で感知したものではなく、不滅の霊魂が存在し、具体的には彼が見たものは天国であるとする点である。

 確かに髄膜炎は大脳を包む膜の炎症で大脳皮質の働きは停止するが、我々の脳は大脳皮質だけではなく、その奥に隠された旧脳ないしは原始脳と呼ばれる脳が存在し、生命維持のための基本的、動物的な働きを行なっていて、この部分が侵されなければ天国を体験することはできると思われる。またこの脳は幻覚を起こすドーパミンや、快楽と関係するセロトニンなどの脳内神経物質を分泌する場所でもあり、彼の見た歓喜に満ちたさまざまな感情を説明することができる。全く後遺症を残さずに彼が回復したこともこのような推測を支持するものである。彼はダライラマとも神秘体験につき対話をしているが、われわれは確かに理性的には説明できない不思議な体験をすることもあるが、それが直ちに本書で述べられているような「天国の証拠」にはならないと思われる。

本庄 巌(編集委員)