2013.12.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 4より)

 

ブライアン・フェイガン 著(東郷えりか 訳)

海を渡った人類の遥かな歴史


河出書房新社 ¥ 2,900+税
20013 年 5 月 30 日発行 ISBN 978-4-309-25283-4 COO44

 

 

 以前南洋貿易に携わっていた友人から東南太平洋にばらまかれたオセアニアの島々の話を聞いて、人々は何故、そしてどのような方法で未知の島に移り住んだのか知りたいと思っていた。その疑問を解き明かしてくれたのが本書である。

 5 万年前、マレーシアやスマトラ島のアジア人は筏や丸木舟で島伝いにニューギニアまで到達している。そして2 万5 千年前にはニューギニアの東 1,000 キロのソロモン諸島に到達しそこで定住するようになる。この区域では例えば 350 キロ離れた島々の間でも交易があったことが発掘された黒曜石によって知られている。このような遠洋航海を可能にしたのは二つの船体を合わせた双胴船への技術革新、星座の知識による方角の確認、目的地からの帰途には季節風の風向きの反転の利用などがあった。島への移住に際しては家畜やタロイモ、サトウキビ、バナナなど主食になるものも持ち込んでいる。

 そして前 1200 年頃、さらに遠洋に向かっての 第2 の大航海が始まり、季節風を利用して東方 380 キロ先のサンタクルーズ諸島、更にはニューカレドニアへと向かい、前 800 年頃には島影のない未踏の海原をこえて 850 キロ先のフィジー諸島に到達している。双胴のカヌーは帆走能力に優れ、風上に向かって 60 度くらいの角度で進めたことが分かっている。彼らが未知の大海原に向かって漕ぎだした旅の動機は単なる冒険の旅ではなく、遺跡の調査などで分かったことは恒久的な定住地を求めての移住であった。人口の増加、そして土地や財産を相続できない次男以下の家族の新しい土地を求めての移住であり、かつてわが国でも行なわれたブラジルなどへの移民と動機は同じだったようだ。

 そして 1000 年頃から 1300 年までの短期間に、ハワイからイースター島、南はニュ―ジーランドを含むポリネシア東部の500 以上の島々へ最後の大航海が行なわれた。このような遠洋航海を可能にしたのは星座と風の知識、海のうねりのパターン、鳥の知識を身につけた航法師の存在があった。このほか本書ではエーゲ海や地中海、さらにはインド洋や太平洋の航海についても詳述されているが、最も興味深いのは上述のポリネシア諸島への大航海である。

本庄 巌(編集委員)