2013.12.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 4より)

 

村田翼夫、上田学 編著

現代日本の教育課題−21 世紀の方向性を探る−


小学館101 新書 ¥ 720+税
2013 年 7 月 31 日発行 ISBN 978-4-09-825176-6

 

 

 本書は、現代日本の教育と制度:バイリンガル・テキスト(2010 年 5 月、東信堂)の続編として編集・出版されたものである。バイリンガル・テキストはその名称から分かるように、海外からの研修留学生が手際よく日本の教育の現状と課題が理解できるように日本語のみならず英文対照という形式で出版されたものであった。

 本書は表題にあるように現代日本が抱える様々な教育上の課題について、多方面から解析を行い、問題状況とその背景や考え方などに言及し、さらにはいかなる展望と解決策があるか、などについて論述したものである。具体的には教育制度の現状と多様な教育ニーズに対応するための柔軟化、障がいを持つ子供たちへのより開かれた教育・支援のあり方、教育をより効率的に提供するために必要な人員の配置や経費の効果的な配分、人と人とのつながりを構築していくためのコミュニティつくり、ボランティアの意味と教育のあり方、教育界の積年の課題である学力問題と学校支援の関係や性別にとらわれない教育の在り方、国際化・グローバル化の進行に伴う教育の国際化への転換、カリキュラムの現状と地域単位における教育の可能性、非行、不登校やいじめなどの横行とこれまで実施されてきた道徳教育とのかい離をふまえてこれからの道徳教育のあり方の検討、あるいは東日本大震災によって発生した原発事故をめぐる諸論をもとに放射線にかかる理科教育のあり方と現状における問題点を提示し、知識基盤社会に生きる市民を育てるという観点から情報教育(ICT)の現状と今後の課題についての論述など、11 章の構成となっている。

 しかし上記の内容で現代の日本が直面する教育の課題がすべて解明されたとは言い難い。例えば少子化の進行や生活様式の変化、人間関係の希薄化などが及ぼす影響、大人として必要な最低限の知識と素養とはなど、残された問題は多い。とはいえ本書は、現代の教育の状況に違和感を覚える人々にとって、教育の今後の展望を考える一つの有力な素材となることは間違いないであろう。

 

上田 学(編者)