2013.12.2
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 4より)

 

宇野賀津子 著

低線量放射線を越えて−福島・日本再生への提言


小学館101 新書 ¥ 720+税
2013 年 7 月 31 日発行 ISBN 978-4-09-825176-6

 

 

 3.11 以降、多くの低線量放射線影響の解説書が出回っています。しかし故意に放射線影響を過大評価して、間違った放射線影響を流布する本が出回り、苦々しく思っていました。私も 3.11 に関連して出版社から執筆依頼を受けたこともありますが、低線量放射線の影響について、一般向けに解説することの難しさを実感して、断っていました。著者である宇野氏とは大学院生時代からの旧知の仲ですが、3.11 以降、急に私の専門とする放射線生物学との接点が生じて、氏らが主宰する NPO 法人「あいんしゅたいん」との交流会で出会う機会も多くなりました。氏の専門は免疫学ですので、福島事故について講演活動をすることは、勇気も要り、大変だろうと思っていました。しかし、この本を読了して、事故に遭われた人々に対する支援活動をしながら、氏が本当に低線量放射線の生物影響について研究者の視点で良く勉強され、更には福島の現状を理解され、培った知識の豊富さに圧倒されました。特に氏が、エイズ問題で患者や社会と関わった経験から、放射線被ばく問題にも共通していることを実感して活動されていること、更には女性研究者として子を持つ母親の立場に立つことができること、このような放射線やエイズの問題が単なる科学だけで解ける問題でなく、マスコミや政治が絡むトランスサイエンスの問題であることを十分に認識して、活動されていることに深く感動しました。放射線影響の知識を持っている人にも、持たない人にも、あるいはマスコミや行政に関わるような人達にも、ぜひ一読して欲しい一冊だと思いました。ところどころに最新の専門的な情報も書かれているので、一見難しいと感じる個所もありますが、ぜひ手にとって、読みこなして欲しいと思います。

 

内海博司(編集委員)