2013.3.3
 
Books (環境と健康Vol.26 No. 1より)

 

金馬宗昭 著

不登校、ひきこもり こころの解説書
−僕がひきこもりだった時に言えなかったこと


学びリンク株式会社 ¥1,200+税
2010 年 3 月 8 日発行 ISBN 978-4-902776-45-4

 



 本書は新刊書ではないが、「ひきこもり」への読者の声に答えて、敢えて本欄に取り上げた次第である。これは自らの「ひきこもり」の鎖を絶つきっかけとして、「ひきこもり」のボランティア活動を体験した著者の貴重な記録であって、その解説が枠囲みで随所に挿入されている。しかも本書執筆のきっかけは小学校 6 年生から家に 10 年以上ひきこもり、やっと社会に再び復帰した青年からの手紙である。

 著者が「ひきこもり」から出てきた社会は、意外なことにボランティア活動で支えられている不登校の子どもたちが集まる場所であった。元々大学卒業後教育関係にいたことが評価されての活動の中で、「自分が受け入れられている」との自信を深め、やがて ECC(Education:教育、Communication:相互理解、Community:社会共同体)生涯学習・教育機関での通信制高校のサポート活動から始めて、現在は通信制高校の教頭として、不登校・高校中退・アスペルガー症候群などの課題を持った生徒たちの援助を行っている。アスペルガー症候群とは、「社会性・コミュニケーション能力・想像力」に問題を持つ場合で、「ひきこもり」易いが、環境次第では、その個性を活かすことも可能である。

 生々しい著者の体験談から引き出せることとして、「ひきこもり」には、些細な達成感を味あわせ、「あなたが必要」との言葉をかけるチャンスを逃さず、「人の役に立つ喜び」を本人が実感することが何よりも大切だと言う。著者は「ひきこもり」から自信を回復し、笑顔を取り戻した時を第 2 の青春と回想している。そのためには著者の様な、「ひきこもり」の心の扉の鍵を持ったカウンセラーが求められている。閉塞感の漂う現代社会の中に埋もれた「ひきこもり」に対して必要なのは、正論ではなく、その心の通訳者としての対話であり、会話であるとの提言には重みが感じられる。

山岸秀夫(編集委員)