2012.12.3
 
Books (環境と健康Vol.25 No. 4より)

 

ウィリアム・H・ダビドウ 著(酒井泰介 訳)

つながりすぎた世界
−インターネットが広げる「思考感染」にどう立ち向かうか


ダイヤモンド社 ¥ 1,800+税
2012 年 4 月 19 日発行 ISBN978-4-478-01521-6

 

 

 1957 年にダートマス大学の大学院生であった著者は、米国が重量 3.5 キロの人工衛星バンガードの打ち上げに手こずっていた時期に、ロシアの重量83 キロの衛星バンガードの打ち上げによってショックを受けた。そこで巻き返しを決心して、カリフォルニア工科大学、スタンフォード大学で電子工学を学んだ後、コンピューター技術開発に関わり、インテルに入社以来シリコンバレーで、IT 業界の経営者として30 年以上に亙って、その経済発展に寄与してきた。それだけにインターネットの情報網によってあまりにも強く結び付けられたグローバルな共生社会の死角に対する本書の警告には説得性がある。原題は Overconnected: The promise and threat of the internet(2011)である。


 著者によれば、原子がつながって分子となり、炭素、水素、酸素、窒素、リンを使って 4 種のヌクレオチドを創り、その結合によってDNA が出来、それをいくつも重ねて生命が誕生し、生命から文明が生まれた。文明が繁栄するためには結びつきが大切であるが、そこには長い時間とゆるやかなつながり、正と負のフィードバックが働いていた。しかし柔軟かつ拡張可能に設計されたインターネットは、仮想空間で個人を過剰に結び付け、私たちの内なる幽霊を生み出してしまい、幽霊は不意に到るところに出没し、物事の変化の速度を急加速させて、もはや理解を超えるレベルにまで達していると考えている。

 本書では、第 1 章「蒸気機関に学ぶインターネットについての教訓」から始まり、話題としては、スリーマイル島原発事故、ミシシッピ川の大洪水やブラックマンデー、アイスランドの金融危機、サブプライム悲劇に見られる金融界のモラルハザード、イスラムの風刺画事件などが取り上げられ、増え続ける大事故や広がる貧富格差とインターネットによる一方的な思考感染を憂慮している。

 そこで著者は、現代技術革命の創り出した、インターネットや原子力発電のような複雑すぎて制御不能になるような機構や装置に対しては、(1)大事故のリスクを下げるための規制を行うこと、(2)システムの構造改革を伴う新たな環境整備の必要性を提言している。天災が原子炉の平常運転を攪乱したのち、それを全く制御できなかった福島原発事故の現実は、私たちにとっての厳しい教訓でもある。本書は今後の規制技術の研究を促す触媒とも言えよう。

山岸秀夫(編集委員)