2007.9.10
 
Books (環境と健康Vol.20 No. 3より)

近藤 元治 著

ドク ガンと闘う−ドクシリーズ第一話


いわはし書店 ¥ 2,500(税込)
2006 年 10 月 30 日発行

 

 

 がんで死ぬ人は年々増え続け、1981 年以来日本人の死因のトップの座にあり続けています。2 位は心臓病、3 位は脳卒中です。本著は、医学が進みヒトの寿命が延びてきたが、必ず訪れる人生の終焉である「死」を自分の問題として考えさせる人生哲学の入門書であり、ガン患者の立場で書かれた数少ないガン医療関係者必読の医療学の入門書だと思われます。

 進歩する医学の知識、ガン告知、インフォームド・コンセント、臓器移植、安楽死などの問題を扱っているにもかかわらず、京都の風物や歳時記を織り交ぜながら京言葉で語っているので祇園界隈を舞台にしたノンフィクション小説を読んでいるような気軽さで、読み進められました。著者の本書に対する思いが「あとがき」に書かれていますが、その意図するところは成功していると思われます。

 特に Part4 の「尊厳死の宣言書」は自分自身の問題として、身につまされる内容でした。Part6 のハイパーサーミアの話題は、評者の先輩が著者本人のハイパーサーミアの恩恵を受けた経験もあり、本治療法が十分に日本の医学界やガン患者さんに知られていないことを、非常に残念に思いながら読ませていただきました。その先輩も Part7 に出てくる老スキーヤーの患者のように元大学教授でした。直腸ガンと判明し京都の総合病院で切除手術されましたが、肝臓に転移があり抗癌剤を投与するかどうかについて悩まれていました。結局、本著にも書かれているように、著者が工夫されたハイパーサーミア療法は肝臓への転移癌に有効であり、またハイパーサーミアの別作用として免疫機能を活性化もすることも知られていたので、ガン細胞も抑えるが免疫機能も抑える抗癌剤の治療より論理的だとして、藍野病院で著者直々によるハイパーサーミアを受けられました。100 回以上のハイパーサーミアを繰り返して、その先輩は転移癌を気にせず元気な生活を続けておられました。病巣が発見された時、「半年の命」という厳しい担当主治医の話でしたが、4 年以上も生き生きと活動され、結局ガンではなく自己免疫疾患で亡くなられました。

 Part8 には、「安楽死か慈悲殺か」という課題を、友人である医師の立場から取り上げられ、マスコミ報道の問題点を鋭く指摘されていて、医療関係者だけでなく、マスコミの人たちにも読ませたい一文となっています。

 一つ気になったのは、本著のカバーに「現・藍野病院長近藤元治が読書と語る」は「−が読者と語る」の間違いと思われます。カバーだけに、このような印刷ミスは修正された方が良いかと思います。また、ISBN 番号がないのは出版社の手抜きではないでしょうか?

内海博司(編集委員)