2002.4.1改訂

健康指標プロジェクト
 
 趣 旨
 


 従来の医学における治療や予防の研究は、単一要素還元主義に基づく分析と単一の測定結果 によって評価されてきた。しかし現実にそれだけでは解決できない現象が治療や予防の上で見られている。例えば
(1)心と体はどのように健康を支え合っているか。
(2)新しいがん治療法として取り上げられたハイパーサーミアでは胸腔や腹腔内の腫瘍を43度に加温することが必要であるが、月にロケットを飛ばすことのできるアメリカでそれに成功していないのは何故か。
(3)疫学データや実験動物によるデータからがん予防に有効と考え推奨されてきたβカロチンが、肺がんの高リスク群に対する大規模な介入疫学研究の結果 、かえってがんのリスクを増すことが明らかになったのは何故か。
(4)細胞の増殖、分化の調節にかかわる多くの因子が次々とわかってきたが、全体としてどのように調節されているのかは今の要素を追いかけるやり方でどこまで解決できるのか。
(5)生薬や細菌リポ多糖のような複合成分の健康効果はどのように評価したら良いか。
(6)神経系や免疫系のホメオスタシスに貢献する環境因子は何か。
(7)胚幹細胞とがん細胞の違いは何か。
(8)数理モデルは生命現象をどこまで定量化し健康指標をパラメータとして引き出すことができるか
等があげられる。

 そこでこの単一要素還元主義を一旦離れ、複合要素のネットワークとしての生体をホリステイックな立場で捉え、しかも科学的に医療や予防の効果 を評価する指標を研究開発することの可能性に挑戦しようというものとして、1999年1月から「要素非還元主義に基づく健康効果指標の研究」プロジェクトを始めた。またここでは従来の統計的有意差万能主義にも批判の目を向け、今までアネクドートとして評価されなかったものの中からその総括によって効果 を判定する方法も開発していかねばならないと考えている。

 以上の提言をできるだけ広く捉え、少しでもこのような問題に関心を持っている研究者に呼びかけ、問題提起や提案をしてもらう。それをまとめて新しい学問の体系を目指すと共に、必要な研究課題に対してはそのためのプロジェクトを作り研究を助成または推進する。これは20世紀の古典物理から量子論への飛躍にも匹適する21世紀における医学生物学の新しいパラダイムの展開への可能性を秘めている。