2000.10.2
 

 平成12年健康指標プロジェクト講演会要旨

第16回 (10月21日、14時〜17時、京大会館102)
転写因子NF-κBの作用機構の解明と疾患制御
岡本 尚
(名古屋市大、分子医学研究所、教授)
 

 

 一般に多細胞生物は,サイトカインなどを介した細胞間の情報伝達をもとに細胞内 シグナル伝達系を駆動し、複数の転写因子の活性制御を行うことにより、細胞機能に 関わる遺伝子群の発現誘導を一定の秩序のもとに調和を保って制御している。NF-κB はそのような役割を担う転写因子のひとつであり,主に炎症・免疫応答に関わる遺伝 子を転写レベルで活性化する作用を持つが、それ以外にアポトーシスの抑制やボディ ープランにも関与することが最近になって明らかにされてきた。このような特徴より 、NF-κBの作用機構の解明は多くの難治性疾患(例えば慢性関節リウマチでの炎症の 遷延化と滑膜細胞増殖、がん転移や発がんのメカニズム、あるいはAIDS発症過程にお ける潜伏感染細胞からのウイルス増殖、など)の病態理解に重要と考えられている。 NF-κBは誘導型転写因子であり、リン酸化カスケードやレドックス制御によるシグナ ル伝達系を介して活性化される。これらの生化学的なカスケードを遮断することによ って、上記疾患の治療戦略を立てることが可能となってきた。他方、私たちは最近、 NF-κBの持つ多彩な生物活性とNF-κB自体にかかる制御機構をよりよく理解するために 、NF-κBの作用に主要な役割を担うp65サブユニットに結合する蛋白分子の遺伝子クロ ーニングを、酵母two-hybrid screening法によって進めてきた。その結果、アポトー シス誘導作用を持つ53BP2 (Oncogene 18:5177, 1999)、転写抑制作用を持つRelA-ass ociated inhibitor (RAI) (J. Biol. Chem. 274: 15662, 1999) とGrouchoファミリ ー蛋白(Grg)(J. Biol. Chem. 275:4383, 2000)など、をこれまでに見出した。これら の蛋白の作用機構を解明することから、多様に見えるNF-κBの生物作用が相互作用分 子との関連において明確に規定できると考えている。また、それとともにNF-κBの関 わる種々の病態に対する特異的な阻害法の開発が可能になることが期待できる。

 

 
 

 

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