2000.6.9
 

 平成12年健康指標プロジェクト講演会要旨

第14回 (6月17日、14時〜17時、京大会館102)
脳腸相関:脳のみでも腸のみでもない世界

福土 審
(東北大学大学院医学系研究科人間行動学)
 

 

 消化器におけるストレス応答は、心身相関の代表的現象である。この現象はまた、外界からの刺激に対する生体の適応反応とも考えられる。消化管に限定してもその研究はめざましく進展しつつある。消化管の壁内神経系の構造と機能が分子レベルで解明され始めただけでなく、中枢神経系と消化管の機能的関連の詳細が明らかにされつつある。これを脳腸相関と呼び、1分野をなしつつある。脳腸相関の研究は、消化管のストレス応答と条件付け反応の検討に始まり、corticotropin-releasing hormone (CRH) に代表される脳腸peptideの機能解明に進展した。代表的なストレス関連疾患である過敏性腸症候群irritable bowel syndrome (IBS) においては、これらの反応 に異常が見られる。研究の進展によって、さらに明らかになりつつあるのは、脳から 消化管への遠心性信号だけでなく、消化管から脳への求心性信号の臨床的重要性である。positron emission tomograpyと大脳誘発電位を用いた実験により、ヒトにおけ る内臓知覚のメカニズムのみならず、刺激下の脳機能module、対応する脳部位、神経 伝達物質、情報処理パターン、これらの結果としての情動形成が明らかにされつつあ る。脳腸相関は、代表的ストレス関連疾患であるIBSの病態解明を意図して追求され ている。しかし、その存在は、機能性消化管疾患の病態生理の解明にとどまらず、消 化器病学における内臓痛形成経路、ならびに脳科学における末梢臓器信号による脳の 意識形成という問題に示唆を与えるものである。

 

 
 

 

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