2000.1.21
 

 平成12年健康指標プロジェクト講演会要旨

第11回 (2月19日、14時〜17時、京大会館102)
HGFによる再生医療
中村 敏一
(大阪大学大学院医学系研究科 バイオメディカル教育研究センター)
 

 

 HGF(hepatocyte growth factor)は私達が肝再生因子の化学的実体として発見・単離、クローニングした物質である。HGFは分子量約85,000でα鎖とβ鎖からなるヘテロダイマー分子であり、α鎖には4個の特徴的なクリングルドメインを有する。他方、HGFレセプターはC-met プロトオンコジーン産物であり、典型的なチロシンキナーゼ型レセプターである。HGFは主に上皮細胞や血管内皮細胞などを標的細胞とし、機能的な細胞社会の構築(組織化)に必須な生物活性であるmitogen、motogen、morphogen活性を有する。さらに、HGFにはanti-apoptosis作用も備わっており、組織破壊を防止したり神経細胞死を抑制する。最近、HGFはVEGFやbFGFに劣らない強い血管新生促進作用を有することも明らかになった。

 HGFは肝再生のみならず、腎再生や肺再生など多くの組織器官の修復を担う器官再生因子であり、また発生過程に於いては肝、腎、肺などの多くの器官の形成に必須の因子であることも明らかになった。組織・器官の形成や再生因子であるHGFは広範囲な臓器傷害や組織破壊によって起こるさまざまな疾患に有効な治療薬となりうる可能性を示唆している。事実、これまでに多くの疾患モデル動物を用いてHGFは急性や慢性の臓器疾患の発症防止や治療に顕著な効果を発揮することが実証されている。とりわけHGF慢性疾患である肝線維症/肝硬変、慢性腎不全/腎硬化症、肺線維症などにめざましい効果が認められる。HGFの示す顕著な薬効は組織化の実行分子として積極的に組織の再構築を促し、機能改善をもたらすと共に、細胞死を抑制し組織破壊を防止する臓器保護作用に由来すると考えられ、根本的な治療法のなかった急性ならびに慢性の臓器疾患の治療薬として期待される。 

 

 
 

 

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