1999.11.19
 

 平成11年健康指標プロジェクト講演会要旨

第9回 (12月18日、14時〜17時、京大会館102)
個体維持・種族保存のための中枢多重共調節系と環境因子
粟生修司
(九州大 医・生理)
 

 

 人類は多くのエネルギーを費やして「豊かで、安全かつ衛生的で、住みやすい」 環境を造ろうとしてきた。しかし、結果として地球温暖化や内分泌撹乱物質などの問題が出現し、摂食および生殖障害や情動障害などが環境因子との関連で議論され始めている。神経科学や分子生物学の進歩は、摂食や生殖機能の調節機構ならびに肥満、糖尿病、摂食障害や不妊症の病因機構の解明を促し、これらの病気の診断法や治療法を大きく発展させた。ところが、患者数は少なくなるどころか非常に増加しているのが現状であり、根本的な見直しが必要である。本来、脳とくに視床下部には、環境変化に応じて食欲や生殖機能あるいは体温を相互に干渉しながら調和のとれたかたちで制御するニューロン機構が構築されている。ブドウ糖受容ニューロン、エストロゲン受容ニューロンおよび温度感受性ニューロンがとくに重要な役割を果たしているが、それぞれが独立しているわけでなく、相互に重複した共受容機構を形成している。このブドウ糖/エストロゲン/温度共受容機構は複数の高次ホメオスタシス調節に関与しており、種々の環境適応反応に関与している。例えば、感染・炎症あるいはストレス環境に対してサイトカイン−モノアミン−視床下部ペプチドネットワークが作動し、ブドウ糖/エストロゲン/温度受容ニューロンの活動が変化し、発熱(あるいは体温低下)、食欲不振および生殖機能の抑制などの「ストレス反応」を引き起こす。このときに生じる生体反応は、一見病的な反応であっても生体にとって利益をもたらす 適応的側面を有している。環境適応反応には性差が認められるが、これは進化の過程で形成されたもので、胎生期や周産期の性ホルモン環境に依存する。胎児期および授乳期に内分泌撹乱物質に暴露されると、行動の性分化が阻害される。行動の中性化は社会構造に影響し、種および個体の適応戦略を撹乱する可能性がある。脳内には環境変化に適応して個体維持および種族保存をはかる機構が存在しているが、本来非常に安定して作動するはずの調節機能が破綻し始めている。生体内外の調和を取り戻すためのアプローチに関して統合生理学的見解を述べる。

 

 
 

 

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