第16回『いのち科学』例会 レジメ  

「初期臨床試験をめぐる最近の話題:マイクロドーズ臨床試験」

要旨

 臨床試験は新薬開発に欠かせないステップです。臨床試験の前には安全性確認のための動物試験(非臨床試験)が実施されます。必要な非臨床試験の種類は筆者が議長を担当した国際会議(ICH)で決めた基準(ICH-M3ガイドライン)に定められています。最初の臨床試験をPhase I 試験といいますが、欧米ではICH-M3ガイドラインに従わない、Phase 0 試験とも呼ばれる初期臨床試験(新薬のヒトによるスクリーニングのための臨床試験)が10年前から認可されており、3年前からはEUでAMS(加速器質量分析法)や、PET(ポジトロン放射断層撮影法)などの最新計測装置を用いた「マイクロドーズ臨床試験」が毒性発現の可能性が殆どない臨床試験として認可されています。また、今年の1月にはマイクロドーズ臨床試験を含む各種の初期臨床試験について解説した「探索的INDガイダンス」がFDAから発表されています。日本の初期臨床試験は欧米にかなり立ち遅れており、これらは未だに認可されていません。筆者は10年前から、8編の解説論文と、数十回の学会講演を通じ、日本でもこれらの新しい初期臨床試験を認可しなければ日本の新薬開発は欧米に遅れをとり、日本の臨床試験は空洞化するであろうと主張し続けてきました。この10年は「空白の10年」でしたが、最近ようやく日本の規制当局も、初期臨床試験の改革に向けて動き出したかのように見えます。ただし、同じ臨床試験といっても、生物製剤に関しては問題があり、本年3月には臨床試験の先進国である筈の英国において重大なPhase I 事故が発生しています。これらを含め、最近の初期臨床試験をめぐる動きについて解説します。(馬屋原 宏)

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