「いのちの科学」プロジェクトの発足にあたって

 鳥塚 莞爾(2013.7.13.ご逝去)

前(公財)体質研究会理事長・京都大学名誉教授

 ヒポクラテスは、「医学は人間とは何かを知ることである」と言われた。もう10年以上になりますが、私にとって印象深い思い出は、京都市で開催された第23回 日本医学総会(1991年 4月)での二人の開会講演の言葉である。

 一人は、福永 光司先生 で「 元気と病気 」と言うことでお話しになられたが、その要旨は、「元気は生気の源であり、病は陰陽の不和である。医学には道教の説く、技と道の両立が必要である。技とはすなわち技術、道とはすなわち生命の哲学である。しかし、医師は生命の誕生、老い、痛み、死に対する哲学を持っていなければ、患者に対する正しい判断は出来ず、信頼も生まれて来ない。良い医師は技術者であると同時に、哲学者でなければならない。」であった。もう一人の講演者の司馬 遼太郎先生は「医学と人間」と題して、「新しい人間の生き方を見い出すために、新しい哲学が必要である。その窓から覗けば、自分の行く先、足どりが見えてくるのが哲学である。 現在、生命の本体を覗いているのは先端生命科学を専攻している医学者である。新しい哲学を医師自身が作っていただきたい。」という要旨であった。

 このたび、(財)体質研究会の健康指標プロジェクトが「要素還元主義に基づく健康指標の研究」が50回の講演会を期に、哲学を失いつつある21世紀に、哲学者も交えた文理融合を目指した「いのちの科学」(Spiritual Science)へと転換したことは、時代を先取りした企画だと自負している。

                                      平成16年9月1日

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