2.話題の画像診断“PET” ―がん診療における役割―

東京女子医大放射線科  日下部きよ子

 我が国では欧米より10年以上の遅れをとってPET検査が日常のがん診療に普及しつつある。PETというのは、ポジトロン(陽電子)放出核種を用いた断層撮影(Positron Emission Tomography)の意味である。陽電子が陰電子と結合して消滅するときに放出する放射線を検出して断層画像を作成する手法である。中でも、FDG(F-18 Fluoro-Deoxy-Glucose)と言うF-18(半減期110分)で目印をつけたブドウ糖の製剤が、特にがん診断に威力を発揮する。これは1970年代より脳の代謝研究に用いられていた放射性薬剤であるが、がんの発育過程を観察する薬剤としても適していることが判明し、世界的に利用されるようになった。1930年代(Warburg)から提唱されていた悪性腫瘍細胞が基本的にグルコースを利用して大きくなるという研究を裏付ける画像となった。放射線機器の目覚しい発展も相俟って、FDGを静注して1時間程度の安静の後にPETカメラに休むと、30分前後で全身画像が撮像される。さらに今日では、PETの代謝機能画像にX線CTの形態画像を一体化させたPET/CTが普及し、難なく全身の融合画像が作成されて詳細に観察できるようになった。被検者の負担が非常に少ない非侵襲的な検査であり、被ばく線量もPET検査のみでは胃腸透視1回分程度である。
 これまでの手法では得られなかった数多くの情報が提供され、体内で生じているブドウ糖代謝の状況が把握できる。がんの鑑別診断や術後のがんの残存、再発の確認が容易となり、がんの拡がりなどは一目瞭然の画像として観察できる。その結果、30%前後の症例で新たな情報が提供され、がんの治療方針が変更されたという報告も揃いつつある。がん診療の現場では、治療法の決定や治療効果の判定、そして予後の推定等に不可欠の検査手段となりつつある。
 一方、がん検診における価値については、未だ一定の見解が見出されてはいない現状である。それは、FDGという薬剤が進行性のがんには高度に集積するものの、発育の遅いがんへの取り込みが低いことに起因する。中でも、これまで我が国で発生頻度が高いと言われた胃癌や肝臓癌の多くは、発育速度が遅いこともあり、FDGのPET検査で陰性になることが多い。FDG-PET検査が高頻度に陽性となるのは、一歩進んだ乳癌や肺癌、悪性リンパ腫、大腸癌などである。そこで、検診に用いる場合も、がんに対する不安を抱えている方々、high riskと言われるがん家系の方々には、大きな福音をもたらす可能性があるが、小さな早期がんを見つけ出すという過剰な期待は禁物である。
 がん診療に大きく貢献しているFDGに続く種々の薬剤も開発されつつあり、PETは21世紀のテーマである分子医療においても、大きな役を担いつつある。テーラーメイド医療に向けてこの放射線をいかに使いこなし、健全な発展に結びつけるか、医療現場では大きな課題に直面している今日である。


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