2002.5.1

宮野恵理のエストニア便り

1. 宮野恵理のエストニア便り(1)


                       
2002年4月18日

 みなさん、こんにちは。エストニア在住の宮野恵理と申します。タルトというエストニアの南の方にある街に住んで、6年になります。ひょんなことから、このページに雑文を寄せることとなりました。

 さて、北国エストニアにもようやく春が訪れました。ここ数日は気温が15度近くに上がる日が続き、庭にはクロッカスが頭を覗かせています。木々の芽もずいぶん膨らんで、今か今かとほころぶ時を待っています。日はどんどん長くなり、太陽の光も、冬のぼんやりした光から夏のきらきらした光へと移り変わっていきます。

 このように自然界は生のエネルギーに満ち満ちていますが、人間は必ずしもそうではないようです。この季節になると、人々は「春疲れ」という症状に悩まされるのです。具体的な症状は、なんとなく体が疲れている、体が重くだるい、眠気が一日中取れない、夜よく眠れない、朝起きられない、など、まさに「疲れている」のです。一体何に疲れているのでしょう。「春疲れ」ですから、春に疲れているのでしょうか。

 実際は、人は冬に疲れたのです。人間の体にとっては寒さはやはり大きなストレスとなり、また長く暗い冬は精神的にもストレスとなります。そのようなストレスの影響が、ストレスの元になるものがなくなった頃に現れてくるのが「春疲れ」だそうです。ですから日本語では「春疲れ」というよりは「冬疲れ」といった方が正しいのでしょうね。ところで日本にも「春眠暁を覚えず」という現象はありますが、これは同じ理由からなのでしょうか。日本にいた頃には、春は暖かくてぽかぽかしているので眠くなるのだと思っていましたのですが、実はこれも冬のストレスから生じる現象だったのでしょうか。また日本語にも「春疲れ」のような言葉はあるのでしょうか。

 さて、せっかく暖かい春が来たのだから、いつまでも「春疲れ」だと言ってゴロゴロしているわけにもいきません。「春疲れ」はどうすればとれるのでしょうか。一番いいのはやはり体を動かすことでしょう。スポーツに限らず、庭仕事をしたり念入りに掃除をしたりという肉体労働をしてその後ゆっくり休むことで、冬の間にたまった疲労からもすっきりと回復、というのが一番体によく、自然な回復に思われます。農家では春になると農作業が始まりますから、昔のエストニア人は、やらなければならない仕事をしているうちに「春疲れ」から回復していったのでしょう。

 しかし体を動かすということは、そういう習慣のない人にとってはなかなかできることではありませんし、時間がないのであっという間に効き目が現れる手段をとりたいという人もいることでしょう。そういう人は「ドーピング」で手っ取り早く疲労回復を狙います。「ドーピング」に使われるものはいろいろあります。まず各種ビタミン剤。もう少しソフトな「ドーピング」を選ぶ人には、例えば養○酒のような種々の滋養強壮剤。そしてさらにソフトなのは、天然の滋養強壮剤です。春を迎えて成長のために水分をたっぷりと蓄えている楓や白樺から頂戴した樹液を飲んだり、ビタミンがたっぷり含まれているベリー類のジュースを飲んだりしますが、これはとてもソフトなので、飲んですぐには効き目は現れません。ただ「体にいいものを飲んだ」という気持ちの問題は大きいでしょうね。「春疲れも気から」かどうかはわかりませんが。

 エストニアのように冬が長い国では、春を迎える喜びはとても大きいものです。春の訪れを喜び、短い夏を十分に楽しむためには、「春疲れ」からの速やかな回復が肝心なのです。もう少したつと、上半身裸で散歩する男性や、ビキニ姿で庭仕事をする女性が見られるようになります。こうして季節は徐々に夏へと移っていくのです。