1999.9.27

 

  7. 日本人の寿命---江戸末期から現代まで
 

 

 もう一度平均寿命に話を戻そう。これが矢張りその集団の健康状態、衛生状態をよく反映していると考えられる。17世紀の初めにせいぜい30才といった日本人の平均寿命は、鬼頭が三つの中部地方の村のデータを参考に出生時平均余命(平均寿命)の長期推移を描いているのを見ると、18世紀には30代半ば、19世紀には30代後半の水準に達している。これを1940年のイギリスと比較すると、そこでは上流階級の平均寿命は25才、商人と上層手工業者のそれは22才、労働者及び僕婢階級はわずか15才にすぎなかった。これはおもに乳幼児死亡率の高いことによった。

 しかし「人生わずか50年」と言われたが、江戸時代はもとより、明治になってもこれに達するのはなかなかで、出生時平均余命が50才を超えたのはようやく1947年である。この年に調査された第8回生命表で、男50.1才、女54.0才と初めて50才台に乗ったのである。第一回生命表(1891〜98年調査)では男42.8才、女44.3才にすぎなかった。その後平均寿命は順調に延びて、1959年には男が65才をこえ、翌1960年には女が70才をこえた。しかし当時寿命先進国であった北欧、スイスの諸国では男が70才前後、女が75才前後であってわが国のそれとは5年位の差があった。しかしその後15年後の1975年にはわが国の値はこれらの国に追いつき、その後さらに向上を続け1985年頃からほゞ世界の先頭を切っている。しかし平均寿命が延びたということは必ずしもすべての病気による死亡がへったことを意味しないことに注意しなければならない。一番大きくきいているのは乳児死亡で、大正末期までは出生1,000対150以上であったものが、逐次低下して昭和15年には100以下になり、22年には76.5、61年(1986年)には5.2と世界に誇れる低い値になった。これについで結核による青少年の死亡が減少したことが平均寿命に貢献している。老化との関連で言えば、成人病による死亡率の減少が平均寿命にきくようになったのは極く最近のことにすぎない。この寿命は一体どこまで伸びるであろうか。またこの急速な伸びの原因は何であろうか。これこそ老化研究の大きな課題である。今アメリカとの貿易摩擦に悩んでいるが、アメリカはあれだけの経済力があり莫大な医療費を使いながら平均寿命は世界ランキング十位以下である。わが国の長寿の秘訣を伝授することででアメリカに貢献してはどうであろうか。

 殊に高齢社会になれば、健やかな長寿を確保することが大切で、これによって高齢者といえども社会に貢献出来、少なくとも社会に負担を掛けることがなくなり、健全な高齢社会を築くことが出来よう。その為には老化の研究が必要であることを重ねて強調しておきたい。

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