2007.2.1

 
 
科学の前線散策
 
 
2. 植物状態の患者が意識反応を示した

菅 原  努


 

 

 人が植物状態になるというのは、意識を失って外から何か働きかけても何の反応もなく、しかし、心臓は動き呼吸さえ保てば命だけは保っていると考えているのではないでしょうか。ところがこの考えに疑問を提出するような論文が発表されたので、有名な科学雑誌のNatureとScienceがそろって取り上げたのです。元の論文は1ページの短報でA.M.Owen et al. Detecting Awareness in the Vegetative State. Science 313,1402(2006)です。2005年7月に自動車事故で植物状態になった23歳の女性で、このような患者は一般に周囲には反応しないし、医師も完全に意識がないものと考えています。この患者が機能性MRI(脳内の血流の変化を観察)で測定をしながら、外から、テニスをしている、あるいは家の周りを散歩している、と呼びかけるとそれに応じて正常な人と同じような部位に血流の増加を見たというのです。事故に会ってからどのくらい日が経っているかが気になる点ですが、それについては残念ながら論文には記載がありません。またこの患者が後に意識を恢復したかどうかについても記載がありません。多分まだそこまで追跡できていないのでしょう。

 このような反応を、意識があるとみなすかどうかは議論のあるところです。一般にこのような障害では脳の運動野は傷害されていないので、もし意識があるなら動かすはずではないか、との批判があります。これに対して著者はこのような時の普通の反応は極短時間しか続かないが、この場合には「おわり」というまで30秒も続いた、と言っています。それにしても植物状態とは、どのように定義するか、もう一度検討する必要がありそうです。これからは植物状態というときには、一度MRIで調べる必要があるということになるかも知れません。