2008.7.1

 
 
科学の前線散策
 
 
19.攫われて兵士なった子ども達

菅 原  努


 

 

 “私の分隊はわたしの家族。私の銃はわたしの頼りであり保護者である。私の護る秩序は殺すか殺されるか。***私は誰も可哀想とは思わなかった。私の少年時代は知らない間に過ぎ、私の心臓は凍り付いたままだったようです。”

 このように、シエラ・レオーネの軍隊に拉致されて反乱軍と戦わされた少年兵イシュメル・ベーハは、その思い出の記「過ぎ去りし長い道」に書いています。1996 年に救出されたときには、彼は麻薬にはまり、人を殺すことを何とも思っていませんでした。

 ユニセフによりますと、30 万人あまりの 18 歳以下の少年男・女が、世界中の 30 もの紛争で戦わされているそうです。世間ではこれらの少年兵達は失われた世代で、その暴力が社会を乱している、と思っています。ところがこの 5 月に米国精神病理学会での発表によると、結果はもっと明るいようです。このように沢山の少年たちが戦争に駆り出されましたが、彼らはその後社会に復帰して、うまく社会に溶け込んでいるようです。逆に暴力を受けたが自分では戦争に参加したことがない人たちよりも、かえって生産的な市民になっている、というのです。

 今までは少数の例から、戦争への参加と社会での暴力とを結びつける結論が出されたことがありましたが、今度の 741 人の男の、619 人の女の青年と子供へのインタービューの結果は、意外なものでした。男では家族と問題のあるのは 3 %、周りの人と問題のあるのは 10 %だけでした。女性での最大の問題は性的奴隷にされた人たちで、子供をつれて帰郷したうちの 14 %が問題を抱えているということでした。そのほかは一般の人たちと違わないということです。

 これらから得る結論は、これらの拉致された不幸な人々を救うのに、決して偏った予見を持って臨んではならないということです。

 この記事は New Scientist 10 May 2008 pp.6-7 のChild soldiers adapt to life after war. という記事によります。