2008.3.1

 
 
科学の前線散策
 
 
15. 子供たちの科学離れ

菅 原  努


 

 

 発展途上国では子供たちが科学に大いに関心を持っているのに、先進国では逆に科学離れが進んでいる。これは最近行われたノルウエイのオスロー大学のCalmilla Schreiner とSvein Sjoberg による 20 ケ国以上に関する国際共同研究の結果です。途上国では国の発展度と 15 歳の子供の科学者希望との関連はほぼ完全に比例しています。ところが先進国では物理や化学の高等教育を目指す子供がこの何十年かにわたって減少し続けています。そのため例えば英国ではこの 6 年間で約 80 の大学で科学の学部が閉鎖され、最近ようやく一部で名前を変えて再開されたという次第です。最近の調査では 11 歳くらいの頃には物理や化学に興味を示すのですが、15 歳くらいになると科学の大切なことは分かるが自分の職業としては考えたくない、というような傾向があります。

 これに対して、教育をする側からいろいろと工夫がなされています。ある国ではカリキュラムをすっかり変えて、学生の興味を引きそうな話題、例えば化学工場をつくる最適な場所は?とか、化石燃料から原子力や自然エネルギーなどの他のエネルギー源に変更するべきかどうか、などから科学の話題に引き込んでその必要性を考えさせる。これに対してそれは大学でやるべきことではなく、一杯飲みながらの話題だ、との批判があります。

 もう一つはロンドンの自然博物館で、実物展示を大幅に拡大したのです。ここには今まででも年に百万人以上の入場者があり、今後の効果が期待されています。このような試みは世界各地で行われています。

 今までのように先生にとっては生徒がどれだけ知識として覚えたか評価するのは易しいが、そうではなく、生徒に自然を探求するやり方を教えるべきだ、というのがその核心でしょうが、しかし、これは実になかなか難しい問題です。今は世の中が科学技術で便利になりすぎて、それを使いこなすのが楽しみになって、自分で新しいものを作っていく楽しみを知る機会がなくなってしまったのではないか、というのが私自身の感想です。これは何も子供の教育だけでなく、大人の世界でもイノベーションが盛んに言われるのも同じことだと思います(環境と健康 20(4)Editorial:イノベーション再訪)。